85歳を迎え、新作『老人の美学』(新潮新書)を刊行した文学界の巨匠・筒井康隆さん。情報化社会の本質と大衆の愚かしさを鋭く穿ち、フィクションへと昇華させ続けてきました。作家の林真理子さんと行った対談では、パリッと着こなしたスーツ姿で、テンポ良く関西弁で語る筒井さんに、老いることとは、書き続けることとは……など、マリコさんも聞きたいことが山ほどあって──。対談の後編をお届けします。
【前編/筒井康隆が考える理想的な“老い”「死の恐怖や苦痛から逃れようとすれば、ボケなきゃ仕方がない」】より続く
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林:最近、お年寄りが書くエッセーや人生論が非常に売れてますよね。特に女性の作家が書くエッセーがブームになっていて、下重暁子さんとか、佐藤愛子さんとか。
筒井:『九十歳。何がめでたい』(佐藤愛子)ね。
林:100万部売れたそうです。
筒井:すごいな。僕のは、その10分の1だよ(笑)。
林:亡くなった田辺聖子さんも、『姥ざかり』とか理想の楽しい老婦人を書いてらっしゃいましたけど、晩年はずっとお体が悪くてお気の毒でした。
筒井:「カモカのおっちゃん」(夫)が亡くなってからだいぶ長いこと一人だったよね。
林:配偶者がいないと、ガタガタッとなるみたいですね。
筒井:なるんでしょうね。このあいだ死んだ眉村卓君(SF作家・2019年11月死去)も偉いよ。奥さんが亡くなってからショートショート集を出したり、自分と奥さんとのことが映画になったりね。僕と同い年なんだ。よく一人で生きたなと思ってね。あれは偉い。娘さんが一人おられて、彼女が世話してたのかな。
林:先生、この本の中で「奥さんを愛し、添い遂げろ」とおっしゃって、結婚式のときも「奥さんを愛して愛して愛し抜け」とスピーチなさるそうですね。
筒井:僕より先にカミさんが死んだら、僕、なんにもできないからね。何とか頑張って生きててもらおうと思って、だから尽くすんですよ。結局、自分のためなんです。