筒井:困るよねえ。「自分が書いたものを出版したいから、出版社を紹介してくれ」という手紙が来たりね。「書いたから読んでくれ」ならまだわかるんだけど。「紹介してくれ」だからね。

林:作家の方でも、昔は売れてるときもあったけど、今は誰も知らないという人がいらっしゃるじゃないですか。ああいうのも見ててつらいですよね。

筒井:われわれにとっては絶大な権力を持っていたはずの老大家が、しばらく名前を聞かないなと思って、編集の人に「あの方はどうなさってますか?」って聞いたら、「税務署に行って、これだけしか収入がありませんと言ったら、生活保護を受けられたらどうですかと言われたそうです」って。

林:えっ、ほんとですか……。

筒井:その話を聞いてショックを受けましたよ。

林:有名な女性の作家がお亡くなりになったとき、住んでいた市が市民葬をしようとしたら、身寄りの方がいなくて、誰に連絡していいかわからないし、担当の編集者はみんな退職しているし、「どうしたらいいでしょうか」って日本文芸家協会に問い合わせがあったんです。

筒井:うわっ……。12~13年ぐらい前、僕は、自分より先に死にそうな人が何人ぐらいいるかと思って書き出したことがあるんだよ。50人ぐらいいたかな。死んだ人を消していくんだけど、その人はまだ残ってるよ。ニュースにもなっていなかったんじゃないかな。僕と同い年の長部日出雄(作家)は、亡くなったというニュースを聞いた覚えもあるし、まだ生きてるという気もするし……。

林:いや、亡くなられました(18年死去)。「老人の美学」を貫くのも大変ですけど、「作家の美学」を貫くって大変なことですよね。

筒井:でもね、このごろ作家って、美学を貫くような大したものじゃなくなったね。だって若い子、知らないもん。俺の名前だって知らない。

林:そんなことないですよ。映画の「時をかける少女」もこのあいだリメイクされましたし、若い人、みんな読んでますよ。

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