筒井:あれの原作者だよと言ったら「へぇ~」って言うけど、それまではわからない。

林:先生が『大いなる助走』(直木賞や選考委員を痛烈に皮肉ったパロディー)を書いたころ、読んでみんな大笑いしましたけど、今はあんなふうに書いても、作家自体の権威とか実態がわからないから、パロディーが成り立たないんですよね。

筒井 そうですね。ただ、あれを読んで作家になるのをあきらめたという人もいる(笑)。

林:本気にしたわけですか。

筒井:そう。ある程度は本当のことも書いてるわけだけどね。このあいだ、何かの賞の受賞パーティーで、受賞者が『大いなる助走』を読んで刺激されたみたいなことを言ってたけど、ちょっとホッとしたね。『大いなる助走』という名前は言わなかったけど。

林:私も聞いてました。

筒井:ちゃんと作家としてやっていけそうな人だったからホッとした。

(構成/本誌・松岡かすみ)

AERA 2020年1月31日号より抜粋