尾木:佐藤さんの話を聞いていると、戦前と戦後では大きく変わっちゃったことがいくつかあると思うんですよね。モラルとか理念だけの問題ではなくて、戦前は家父長制と家制度で、きちっとまとめられてたけど、今はこれが崩壊してしまった。かつては父は家長という社会で、「世間」という認識があった。親父は「世間体の悪いことだけはしてくれるな」とよく言っていた。でも、今そういう意識はないでしょ。世間体がなくなったら、縛りがなくなったといういい面もあるけど、ものすごくわがままで人間の汚いところが表に出る。地域のつながりも薄れ、子育て教育においても個々の家庭が孤立している状況です。

佐藤:私が子どもの頃は、何かというとそんなことでは世間さまに申し訳ない、とよく叱られたものです。それに反発するのが青春というものだった。抵抗したり、謝ったりして、そこを通り過ぎて一人前のおとなになっていく。そういう戦いは今はなさそうですね。ものわかりのいい世の中になって。

尾木:しかも今、決定的に違うのは、スマートフォン(スマホ)がものすごく普及しましたよね。良さもあるんですけど、これで好きなことを匿名で何でも言える。子どもたちのいじめも深刻化させてしまっています。

佐藤:私はインターネットは一切関知せずに生活しようと思って、何も持ってないんです。こういうもの(スマホ)がなくても生きていけると思ってたんですけど、しかし最近、だんだんと生きにくさを感じるようになってきましてね。人の会話を聞いていても、何のことやらさっぱりわからない。いろいろ娘や孫に訊かなければ事務的なことに対応できなくなってきました。今まで威張っていたのが低姿勢になってきて、向こうはえらそうにするようになってきてるんですよ。

尾木:それをなんで子どもに持たせちゃうのか。少なくとも高校生ぐらいからなら、いろんな判断力も出てくるからいいけど。今、0歳児に毎日スマホを見せてる親が20%もいるんです。今年5月にはWHO(世界保健機関)がスマホなどのゲームへの依存は病気だという認定をしました。もっと慎重であるべきなのに、災害時の対応のために学校への持ち込みを解禁する自治体も出ています。

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