大塚篤司/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
「ステロイド外用剤は正しく使えば怖い薬ではありません」(写真:getty images)
「ステロイド外用剤は正しく使えば怖い薬ではありません」(写真:getty images)

 アトピー性皮膚炎の治療で使われるステロイドは、不確かな情報から「怖い」と思っている人も多いのではないでしょうか。なぜ怖いと思ってしまうのか、京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が解説します。

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「サクランボが山盛りになった器にゴキブリが一匹いただけで台無しだが、ゴキブリがいっぱいのバケツにサクランボが一つ交じっても何の感情も引き起こさない」

 心理学者のポール・ロジンは強烈な例えで負の感情の強さを説明しています。負の感情はしばしば、論理的な判断の邪魔をします。

「怖い」という感覚は負の感情の一つです。そして、私たちの脳はあっさりと負の感情に乗っ取られ間違った判断をします。

 飛行機に乗るのが怖いと思う方は一定数いると思います。米国の国家運輸安全委員会(NTSB)の調査によると、自分が乗った飛行機が事故に遭う確率は0.0009%。一方、日本の国土交通省発表の交通事故発生数から概算すると、1年間で車の事故に遭う確率は約0.8%です。確率的には、車より飛行機のほうが圧倒的に安全です。

 私も国際学会で飛行機に乗るとき、「怖い」と思うことがあります。しかし、飛行機がなんとなく怖いという感覚だけで国際学会に参加しないと決めれば、最新の生の医学情報を聞き逃すことになります。

 飛行機が危険という認識は、飛行機事故の頻度ではなくインパクトの強さによります。

「怖いからやめておこう」

 この瞬間的に判断するための単純化した手がかりのことを「ヒューリスティック」と呼びます。ヒューリスティックとは「見つけた!」を意味するギリシャ語が語源。日常生活のすべての場面において理路整然と判断するのは難しく、私たちはヒューリスティックを利用して瞬間的に判断しています。

 2002年にノーベル経済学賞を受賞した認知心理学者ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』の中に、ヒューリスティックのひとつ「利用可能性ヒューリスティック」についての説明があります。利用可能性ヒューリスティックとは、ぱっと頭に浮かぶ情報から瞬間的に判断すること。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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「飛行機に乗るのは怖いから…」