いくつか誤解されている副作用もあります。代表的なものの一つに、ステロイドを塗ると皮膚が黒くなるというもの。これは間違いです。ステロイドに皮膚を黒くする作用はありません。皮膚炎とはいわば火事のようなもので、ステロイドは鎮火するための水です。火事の後の黒くなった部分は、消防の放水のせいではなく火事そのものが原因です。

 また、ステロイドを塗ると骨が弱くなる(骨粗鬆症)といった副作用。これはステロイド内服での副作用であり、ステロイド外用剤では起きません。同じように内服と外用の副作用を混同しているものに、糖尿病、胃潰瘍、高血圧などがあります。これら全身性の副作用は、一般的なステロイド使用量で起きることはありません。一方、大量のステロイド外用剤を使うと内服と同じ副作用が起きるとの報告もあります。全身性の副作用を起こさないステロイド外用剤の使用量の目安は、体重10キロあたり月間15グラム未満(J Dermatol, 31:277,2004)。20キロの体重のお子さんはステロイド外用剤30グラムまで、60キロの成人は90グラムまでの計算になります。これより多いステロイド外用剤が治療に必要な場合、全身性の副作用が出ないか副腎機能をモニタリングしながらの投与となります。

 怖いというイメージを払拭するのはとても難しいことです。治療が必要であること、治療をしないとほかの合併症を引き起こす可能性、そして、薬は正しく使えば怖くないということ、これらを丁寧に説明し理解してもらう努力と工夫が私たち医師に求められます。

 もちろん、薬の副作用で実際に苦しんでいらっしゃる方もいることを忘れてはなりません。原因がなんであれ、苦しんでいる患者さんがいれば少しでも楽になるように手助けするのが医療従事者の役目だと思っています。

 ステロイド外用剤は正しく使えば怖い薬ではありません。漠然と怖いという感覚を克服するには、正しい情報から合理的な判断をする訓練が必要です。ステロイド外用剤が治療に必要なとき、不確実な怖い話をもとに間違った判断を下すと健康面で不利益を被ることがあります。健康情報に関しては感情にとらわれず論理的な判断ができる社会になってほしいと思っています。

◯大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん薬物治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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大塚篤司

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大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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