森下:そうなんです! 年下なのに、お父さんだと思えた(笑)。母親にお茶を習いなさいって勧められるシーンを撮った後に鶴見さんが、「(森下さんの)お父さんはその日、すごく幸せだったんじゃないかなぁ」っておっしゃって。人の幸せって、こういう普通の日常の中にあって、僕らはそういうことを意識して演技していかなきゃなと思ったんですよ、という言葉がうれしかった。

夏目:お父さんが亡くなったりはするけれど、ある意味では、何がどうっていうことのない映画だったりしますよね。

森下:そうなんです。取り立てて大きなことが起こらない。だけど、お茶のシーンなんかには、小津安二郎さんの映画のような雰囲気すら感じました。

夏目:大きな物語を作らない。そこがいい。そういう意味では鶴見さんの言う普通の日常、小津映画的なものかもしれないね。この映画、フランスとかでウケる気がするんだけど。

森下:フランス!? 確かにアメリカではない気はしますが(笑)。

夏目:ハリウッドは黒澤映画だけど、フランスでは圧倒的に小津安二郎。ちなみにフランスでウケている漫画は、谷口ジローなんです。

森下:フランスで上映してくれないかな(笑)。

夏目:主演の黒木さん、いとこ役の多部未華子さんも大好きだし、鶴見さんもとてもよかった。そして何より、樹木希林さんにも圧倒されました。

森下:樹木さんのセリフは、同じセリフでも、演じるたびに毎回毎回、違って聞こえるんです。樹木さんの長い女優人生の中で「お茶の先生」役をなさったのは、この映画が最初で最後だったそうです。

夏目:ある意味あまりにも普通なんですよね。こういう先生、いるだろうなという気にさせてくれる。

森下:なんなんでしょうね。“お茶の先生らしさ”というものを、どこかで取材してるというか、切り取ってらっしゃるのかな。

夏目:僕は、漱石のアンドロイドに関する作品を作った時に漱石の声をあてたことがあって。その時に、みんなが思い描く「漱石」と、「漱石の孫」である僕自身、その間での落としどころを意識したことがあったんです。僕は役者ではないけれど、樹木さんも、お茶の先生というものを勉強したのではなくて、そういうイメージで演じていたのかもしれないという気もします。

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黒木華さんと多部未華子さんの印象は?