また、事故後に走り去ったことについて、保田氏はこう指摘した。

「これまで北海道から九州まで全国の事故映像を解析していますが、大きい事故を起こしても通常は停止する方が多いですね」

 それが義務であり、当然のことなのだが、一目散に発進する様子は理解に苦しむ。その映像の恐ろしさから、より刑の重い危険運転致傷罪が適用されるのではとの臆測もあった。石川法律事務所の江口大和弁護士が解説する。

「過失運転致傷罪は必要な注意を怠ったことによって他人にけがをさせる点が特徴です。一方、危険運転致傷罪にはいくつかの類型がありますが、今回のケースで考えると、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、人を負傷させた場合に成立します」

 となると、危険運転致傷罪の適用も考えられそうではあるが……。

「たしかに吉澤被告の呼気からは相当な量のアルコール成分が検出され、また、横断歩道に高スピードで突っ込んでおり、正常な運転が困難な状態だったのではないかとの印象を持たれます。にもかかわらず、危険運転致傷罪が適用されなかった理由は、事故後の吉澤被告の行動にあります」

 吉澤被告は事故を起こして現場から発進した後、次の赤信号で停止するという正常な運転をしている。「このことから考えると、直前に起こした事故はアルコールの影響で正常な運転ができなかったためではなく、前方不注視という過失によるものだったという疑いが残るのです。そのため捜査機関は慎重な選択をせざるを得なかったのだと考えられます」(江口弁護士)

 吉澤被告の量刑はどうなるのか。

「過失の程度が重く、酒気帯び、ひき逃げの罪も加味されることを考えると、1年以上2年未満の懲役に執行猶予3~4年が見込まれます」(江口弁護士)

 被害者との間で示談が成立した場合には、刑が軽くなる可能性もあるという。しかし、仮に被害者から許されたとしても、罪を犯したことに変わりはない。

「吉澤被告は過去に一日警察署長も務めるなど、犯罪の撲滅を訴える活動もしていました。事件に対して、今後どう向き合っていくのか、公判で彼女自身が考えた言葉で語ることが期待されていると思います」(江口弁護士)

(本誌・秦正理)

※週刊朝日オリジナル限定記事

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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