藤井まり(ふじい・まり)さん/精進料理研究家。1947年、北海道生まれ。早稲田大学卒業。夫で僧侶の藤井宗哲氏(故人)と共に精進料理教室「禅味会」を主宰。著書に『旬の禅ごはん』(誠文堂新光社)等。
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藤井まり(ふじい・まり)さん/精進料理研究家。1947年、北海道生まれ。早稲田大学卒業。夫で僧侶の藤井宗哲氏(故人)と共に精進料理教室「禅味会」を主宰。著書に『旬の禅ごはん』(誠文堂新光社)等。
夫と神奈川県鎌倉市稲村ガ崎に「不識庵」を開いたのは、今から36年前のこと。夫は北鎌倉・建長寺で典座(台所役)を務めていた。精進料理教室は今も活況を帯びている
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夫と神奈川県鎌倉市稲村ガ崎に「不識庵」を開いたのは、今から36年前のこと。夫は北鎌倉・建長寺で典座(台所役)を務めていた。精進料理教室は今も活況を帯びている

 新しいことにチャレンジしていく行動力&とんがった感性を忘れない! そんな70代の女性が増えているよう。今回は精進料理研究家の藤井まりさんをご紹介します。

【写真】藤井さんの伝える精進料理はこちら

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 何せ、この人をつかまえることは容易なことではない。世界中を飛び回る精進料理研究家・藤井まりさん(71)。藤井さんが夫で僧侶の宗哲さんと精進料理教室を始めたのは36年前だ。が、12年前に夫は他界。いまは藤井さんがひとりで切り盛りをする。

「皆さん、引き続き来てくださるので頑張らないと。最近は地方で教室を開講することも多いんですよ」

 10年ほど前からは、海外からの出張リクエストも増えている。イギリス、フランス、フィンランド、アイスランド、デンマーク。今年はドイツ、イタリアで精進料理のワークショップを開講してきた。

「禅やマインドフルネスのブームで、精進料理はマインドフルな(心がこもった)食事として、再び注目を集めてきているようです。精進料理は、旬の野菜や大豆など、植物性食材のみで作ります。ヘルシーなイメージも受け入れられているのかもしれませんね」

 藤井さんが国内外で料理と共に伝えていきたいのは、精進料理の精神だ。

「食材の身も葉も皮もすべて使い切ろうという『一物全体(いちぶつぜんたい)』の精神。そして生まれ育った土地柄と季節に合ったものを食べようという『身土不二(しんどふじ)』の精神を伝えていきたいです。旬のものから滋養をとり、身体を守るという、昔ながらの食事の知恵は忘れ去られてはならないと思います」

 そして料理を作る時の心と料理をいただく時の心も広めていきたいという。

「料理は一瞬一瞬に心を集中して作るもの。いただく時は、感謝しながらゆっくり味わい『足るを知る』ことです。『即今只今(そっこんただいま)』という禅の言葉があるのですが、目の前の『今』と向き合うことが一番大事という意味で私はとらえています。食事はエサではありません。一食一食、決して疎かにはできないのです」

 藤井さんは、人との縁も大事にしている。

「草の根的な縁でもご縁はご縁。精進料理に興味を持ってくださった方がいるのであれば、どこでもすぐに飛んでいかなきゃ。どう言っても人生のゴールは近づいている。ならば今できることは今やらなければと思うんです。細かいことは、走りながら考えればいいじゃない(笑)」

(赤根千鶴子)

週刊朝日  2018年9月7日号