通帳コピーの改ざんは、中古1棟マンションへのスルガ銀融資で始めた。同行の融資額は物件価格の9割が上限で、1割分の自己資金を払えることを預金通帳などで示すよう求められる。億単位の物件なら1千万~2千万円の残高が必要だが、そんな大金を持つ会社員はほとんどいない。

 ところが貯金がない会社員でも「自己資金ゼロで投資できる」と業者に誘われ、手付金を払わずにスルガ銀から融資を受けたケースが多い。

 手口はこうだ。まず業者が多くの融資を引き出すために実際の取引価格より高い値段の「売買契約書」を偽造し、銀行に示す。そして1割分の自己資金があるかのように客の通帳コピーを改ざんする。客に耳打ちする例もあるが、資料は業者から銀行に渡るため、銀行の融資担当者さえ目をつぶれば顧客にナイショで不正工作を進められる。

 ただし、多くの銀行は通帳原本を提示させて確認するのが鉄則だ。ネットバンキングなら、目の前のパソコンでログインさせることが多い。にもかかわらず通帳原本を確認しない行員がいるのは、「不正があるとわかっていて、あえて見逃していた可能性が高い」(スルガ銀行員)という。

 A氏は銀行担当者と直に接する立場にはないが、通帳改ざんはスルガ銀の融資で行うことが多く、その理由についてこう説明する。

「たとえばオリックス銀行もアパートローンに積極的だが、不正には厳しく、バレると取引できなくなるだけでなく、徹底的に追放される。その点、スルガは新規業者にもおおらかで、不正資料でも簡単に通す。担当者もわかっていると思いますけどね。それに築20年以上のボロ物件に30年の返済期間で億単位のカネを貸す銀行、スルガ以外にはほぼないんですよ」

 スルガ銀の金利は年3.5~4.5%と、他行に比べて高い。真っ当な収益物件を不正抜きで売買できる顧客が相手なら、他行のローンのほうが客のメリットは大きい。「どうしようもないクソ物件とか、年収や貯蓄が足りない客にどうしても売りたいときにスルガを使う」(A氏)。結果、古い物件と融資基準を満たさない客への過剰融資がスルガ銀に集中したようだ。

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とんでもない業者は、東京都内にも