■靴職人


一人ひとり少しずつ違う足の形に合わせて革を切り、貼り合わせて成形する靴職人。手作りの革靴はフィット感がよく、歩くことが楽しくなる。

「靴職人にはワニという道具が欠かせません」と青木正人さん。

 ワニとはペンチとハンマーが一つになったもので、道具を持ち替えることなく、革を挟んで引っ張ったり、革の表面をたたいたりできるもの。さらにこの突起を支点に、テコの原理で革を靴底へ引き込むこともできる靴職人のために生み出された独特の道具である。

 革を切る包丁は、日々刃を研ぐため、どんどん短くなる。

「うちはオーダーのあった客に合わせて微妙に違う靴をつくっているので、細かな加減をしていくんです。そのためにも自分の手に馴染んだ道具は大切で、もう体の一部と言ってもいいでしょうね」

「goro」東京都文京区本駒込6‐4‐2

■宮大工
寺社をはじめ、文化財の修復を手がける宮大工。法隆寺から始まる伝統建築の雛型と原点を今も頑なに守り続ける。

「すべての道具は宮大工にとっての命です。釿(ちょうな)、指金(さしがね)、墨壺は、宮大工三種の神器で、最も大切なものです」と松本髙広さん。

 大工道具のうち、鉋(かんな)の台、釿などの柄や墨壺も自らつくる。細かな作業が求められ、最高の出来栄えを目指すために、道具もそれに見合ったものが要求されるのだ。

 大工の道具は時代を経るごとに洗練され、使いやすくなっているが、歴史ある建造物は、あえて昔の道具で修復している。そうしないと、もともとの建物とは別のものになってしまうと、松本さんは言う。

「それが、先人から受け継いだ本物の技を伝える宮大工の使命です」

「松本社寺建設」神奈川県鎌倉市二階堂710 瑞泉寺境内

(取材・文/本誌・鮎川哲也)

週刊朝日 2018年4月27日号