兼子さんは、自分の意思でコントロールできるようになった手を見つめ、

「何十年も苦しめられてきたふるえが、数時間横になっているだけで止まるなんて、夢のようです」

 と驚きを隠さない。細かな作業もできるようになり、離職の危機も回避できた。

 FUSの臨床研究は13年から現在まで、貞本病院を含め全国5施設で、それぞれ利き手側の片側のみ10例を目安に実施された。どの施設でも結果は良好で、16年12月に厚生労働省から薬事承認を受け、現在は一般診療で実施される。

 本態性振戦で薬が効かない場合、従来は視床Vim核を熱で焼き切る視床破壊術や、視床Vim核に細い電極を差し込み、胸部に埋め込んだ装置から電気刺激を送り、乱れた信号を調整する、脳深部刺激療法(DBS)が実施されてきた。ふるえの改善効果はもちろん、からだへの負担軽減などの面から、FUSのほうが優れているのは明らか。しかし、まだ自由診療のため、費用負担の課題が残る。伊賀瀬医師はまた、FUSの今後についてこう言う。

「FUSの治療効果に影響を及ぼす、頭蓋骨の超音波の通しやすさなどの、事前の検査をしっかりおこない、集束超音波の効果が得られやすい患者さんを慎重に見極めて実施することが重要になってくるでしょう」

週刊朝日 2017年3月10日号