大分県在住の会社員・兼子真さん(仮名・45歳)は20代のころから手のふるえに悩まされてきた。10年ほど前、地元の神経内科クリニックで本態性振戦と診断され服薬を続けたが、食事をとるのもひと苦労という毎日が続いた。

 仕事にも支障をきたし職場に居づらくなったころ、海をはさんだ愛媛県の貞本病院で、本態性振戦の臨床研究が始まったことを新聞報道で知った。さっそく連絡をとり、15年4月に同院を訪れた。

 診察した脳神経外科部長の伊賀瀬圭二医師は、臨床研究中だったMRI誘導経頭蓋集束超音波治療(FUS)の適応と判断。6月に同治療を実施した。

 伊賀瀬医師がFUSについて説明する。

「虫めがねで太陽の光を集めるように、超音波を一点に集中させて、ふるえに関与する神経核を凝固壊死させます。効果が高く、副作用が少ない治療です」

 患者は剃髪し、頭部に専用のフレームを固定した後、専用のベッドにあおむけになる。続いて、超音波を発する1024個の端子が付いたヘルメット状の装置の中に頭部を固定し、MRIに入る。

 脳をMRIで何度も撮影して、ふるえに関与する視床Vim核の位置を確定していく。超音波は低温での照射から始め、MRIの画像と合わせて、照射の精度を高めつつ、温度を上げていく。2時間ほどの間に15~20回照射して、最終的には55度以上にして視床Vim核を凝固壊死させる。

 照射で頭部が高温になりすぎないように、患者の頭部とヘルメット状の装置の間に水を循環させて冷却しながら治療する。装置を固定する際に頭部に局所麻酔をおこなうが、意識はあるため、患者は医師と話したり、手を動かしたりできる。

 超音波を照射するたびに、患者に話しかけ、紙にらせんや直線を書いてもらう。副作用のチェックをしながら安全を確保して、治療効果も確認する。

「FUSが画期的なのは、治療中からすでにふるえ改善の効果が得られるということです」(伊賀瀬医師)

 兼子さんは、治療中にほぼまっすぐな線が書けるようになった。

 治療時間は通常、約3時間。前日から入院して、治療後も様子を見るために1泊し、合計2泊3日のケースが多い。

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