「手関節の人工関節は海外で開発されたことはありましたが、複雑な手関節の動きに耐えきれず、人工関節に負荷がかかりすぎて破損したりして、普及していなかったのです」
そこで、北海道大学は医療機器メーカーと協力し、2004年、手関節の人工関節開発に着手した。人間の手関節の実際の動き方を解析した結果、ダーツを投げるときの動かし方がヒントになることがわかった。この動きにより、日常生活で必要な多くの手関節の動きをカバーできるうえ、人工関節への負荷を軽減できることを見いだした。
基礎研究終了後に臨床試験に入り、有効性と安全性が示された。
そして16年10月、「DARTS人工手関節」として、国産初となる人工手関節の製造販売承認を取得した。これにより、今後、一般の患者への実用化が可能となる。
関節リウマチの薬物療法は進歩が著しく、生物学的製剤が登場し、リウマチそのものの進行は抑えられるようになってきた。これに伴い、手関節の手術実施数が増えている。
こうした現状の背景を岩崎医師は次のように解説する。
「ひざや股関節などは薬物治療により歩行能力の維持が可能になるケースが増え、長年がまんしてきた手関節の手術に踏み切ろうという患者さんが増えてきたのです」
現在の高齢患者には、生物学的製剤が普及する前に手関節の症状が進行してしまったケースも多い。DARTSの開発は、これらの患者のニーズに対応したものでもあった。
岩崎医師は、
「手関節の人工関節が広く使われるようになれば、手の症状だからといってあきらめる必要はなくなります。日常生活でできることが広がり、その後の生活を豊かにしてくれることでしょう」
と期待する。
※週刊朝日 2017年1月27日号