そのうち海側で発生して津波をともなう「海溝型」地震も含めた「今後30年間に震度6強以上の揺れに見舞われる確率」の地図をみてみると、巨大地震の可能性がある地域は一つや二つではない。

 例えば、とくに危険度が高いとされる地域は、首都圏の東京や神奈川のほか、静岡、愛知、三重、四国地方の徳島、高知だ。次に危険なのは、東日本大震災で被災した宮城、福島のほか、北海道や茨城、埼玉、千葉、長野、山梨、和歌山、大阪、岡山、香川などだ。

 さらなる展開もある。新たな知見をもたらすのはIT技術だ。GPS(全地球測位システム)が新たな“爆弾”の在りかを突き止めつつある。それは地下地盤の「ひずみの壁」だ。

 国土地理院などによると、1990年代から測量用の基準点や地殻変動観測を目的に全国に電子基準点を置き始め、GPS衛星で24時間、高密度で高精細な測量をスタート。基準点は現在では1300カ所超におよぶという。集められたデータはオープンだ。さらにここ数年は、大学などが太平洋や日本海といった海底にも測量機器の設置を増やし始めている。

 このデータを活用して研究に取り組むのは、京都大学防災研究所の西村卓也准教授(地殻変動論)。地盤が隆起、沈下したりする様子や、動く方向から分析している。西村准教授によると、日本列島は地盤の動きから、いくつかのブロックに分けることができる。このブロックの境界には過去の震源が集中。つまりブロックの境界は「地震の巣」となる可能性もあるのだ。

「この分析でも境界にどのくらいのひずみがたまっているのかはわかりません。ただ、たまる速さがわかる。今回の本地震も、GPS観測だと少なくとも熊本から阿蘇、大分まではひずみがたまる速度が速い場所でした。一つの地震でひずみの一部が解消されても周囲に連鎖的にひずみが集中し、地震が発生していると思われます。この観測を(活断層などを探る)地質調査と両輪でやれば、内陸部地震のリスク評価の精度は上がる」(西村准教授)

 もちろん各地で今動く様子をとらえることで、異変も察知できる。西村准教授はこう続ける。

「東日本大震災以降、中部地方から北陸、山陰にわたって今も影響が続いています。ひずみがたまる速さが増しているのです。東日本大震災以前と比べ、危険度は高まっている。南海トラフによる巨大地震の想定地域の太平洋側についても、GPSで観測するとブロックの境界では『次』に向けたひずみがたまり、巨大地震が起こりやすいステージに入りつつある」(本誌・鳴澤 大、西岡千史)

週刊朝日 2016年4月29日号より抜粋