「週に1回やっている認知力アップトレーニングで最も効果があると思う本山式筋トレをジャスティンと二人でやってみませんか」

 Huanさんは映像になると思ったのか、ぜひやってほしいと言い、ジャスティンも興味を持った。さっそくぼくが椅子に座って右足を上げる。腿に集中しながら、その足を上下に10センチほど動かす。ジャスティンは隣の椅子でまねをする。7回ほどで顔がゆがんだ。我慢して10回やると顔が真っ赤になった。

「運動しているときに腿が痛かったですか」

「痛かったよ」

「痛みが脳につながっている証拠だからOKです。その脳刺激が脳を活性化させるのです。ぼくはトレーニングを始めるまで、その痛みを感じませんでした」

 続けて椅子に手をついて足を後ろに上げる中臀筋を鍛える運動、足を広げて体を真っ直ぐに起こしてやるスクワットなど幾つか運動をさせた。隣でぼくはジャスティンの姿勢を直したり、

「もっとゆっくり、最後まで伸ばして」

 など、ここで、ぼくは師匠の本山さんになり代わって声を出してジャスティンをしごいてやった。約20分。汗を噴き出した彼は、

「こんな運動をいつもどれくらいやるのですか」

「毎週1回は先生について1時間半。自宅では毎日20分はやっています」

 ジャスティンの顔に初めて納得の表情が浮かんだ。

「トレーニングを重ねると自分の筋肉を自由に動かせるようになると筋トレの先生は言います。冗談だろうと思っていましたが、半年ぐらい続けるうちに胸の筋肉をピクピク動かすことができるようになった」

 カメラと音声の二人は何度もフィルムを替えたり、ぼくが自分の席で働いている姿を撮影したりした。気がつくと3時間以上が経過していた。

 週刊朝日の編集部の周りにはアエラ編集部など他部もある。テレビクルーが動き回るだけで迷惑をかける。ぼくはHuanさんに、

「そろそろ終わりにしていただけませんか」

「最後になりましたが、山本さんが私たちクルーを出迎えてくださる場面を撮りたいのですが」

「不自然ですよ。ぼくは嫌だ。もう約束の時間を倍以上経過している。他の部署にも迷惑をかけている」

 無性に腹が立っていた。怒りっぽいのも認知症予備軍の症状の一つかもしれないけど、やっぱり少し身勝手が過ぎるよな。Huanさんも理解してくれてようやく取材は終わった。ほかにも多数を取材するという。放送は1月17日の予定だった。DVDを送ってくれるように頼んだが、いまだに届いていない。どんな内容か不安だった。締め切り直前に、「山本さん、映像はインターネットで簡単に見れますよ」と言われた。

 ITオンチのぼくはポカンとするだけ。同僚が操作すると、パソコンからぼくの顔が。後半に5分以上、インタビューの模様が映しだされる。圧巻はMCを鍛えた映像だった。タイトルも変えてうまく編集してあった。ほっと安心した。

週刊朝日  2016年3月4日号より抜粋