「普通のX線を使っている者にとって、前立腺がんに対して本当に粒子線治療が有意であるかというと、実は疑問に私自身も思っています。周りの人に怒られるかもしれませんけれども」

 北海道がんセンター名誉院長の西尾正道氏は、粒子線治療の現状を批判する。

「先進医療に承認されて10年以上経つのに、まともなデータが出せなかったわけです。これまで粒子線治療に関しては線量分布が良好だと言われ設置が進められてきたが、近年のコンピューターによるX線治療の発達により、粒子線治療が有意に優れているといえる疾患は非常に少ないのが実情です。現在、最も多く扱っている前立腺がんなどでは、海外のデータではすでにX線治療と差が出ないことが明らかになっています」

 先進医療は将来的な健康保険の適用を目指すことが前提で、AとBの2群に分けられている。Aは、「医療機器や治療技術の有効性や安全性が比較的高いもの」が対象だ。一方、Bは「有効性や安全性が不明確」なため、臨床試験を行って厳しい審査を受ける。粒子線治療は、これまでAに分類されてきた。

 適応となる疾患は、頭頸部腫瘍、肺がん(非小細胞がん)、肝臓がん、前立腺がん、骨・軟部肉腫など。転移のない限局性固形がんのすべてがAとされていた。しかし、学会は有効性が不明確だった前立腺がんや肝細胞がんなど一部を、Bへ移す方向で厚労省と調整していくことになった。

 一方で、一部の小児がん、頭頸部がんなどは有効性が認められたとして保険適用の検討を要請した。

 今回、前立腺がんなどが先進医療AからBへ振り分けられれば、事実上の「降格」「格下げ」と言われても仕方がないだろう。

 Bになれば、患者数や年齢層、がんのステージ、期間などを限定して臨床試験を行うことになる。適応患者が減ることになれば、粒子線治療施設は経営的に大きな打撃を受ける可能性がある。

週刊朝日 2015年9月25日号より抜粋