がん粒子線治療は、日本が誇る最先端医療技術として世界に広がりつつあったのだが…(※イメージ)
がん粒子線治療は、日本が誇る最先端医療技術として世界に広がりつつあったのだが…(※イメージ)

 がん粒子線治療は、日本が誇る最先端医療技術として世界に広がりつつあった。ところが、放射線治療の関係学会が8月、前立腺がんなどで既存の治療法と比較し、より優れていることを示すデータは得られなかったと発表したのだ。

 がん粒子線治療には、陽子線と、重粒子線(炭素イオン線)をがん細胞に照射する治療がある。ピンポイントでがん病巣だけを攻撃できるので、従来のX線治療よりも治療効果が高く、副作用が少ないことなどがメリットとされている。

 陽子線治療は2001年、重粒子線治療は03年に厚生労働省の「先進医療」に承認された。診察や検査費、投薬、入院費は健康保険が適用されるが、治療には自己負担で約300万円もの費用がかかる。高額医療だが、患者数は年々増加し、14年度の陽子線と重粒子線を合わせた治療実施件数は4555件、先進医療費用は合計127億円に上る。

 ところが、ここにきて粒子線治療の有効性に疑問符が付けられた。日本放射線腫瘍学会は前立腺がんなど一部のがんで、既存のX線治療などと比較して優位性を示すデータが集められなかったとする報告書を作成。8月6日、厚労省の先進医療会議に提出した。会議の参加者の一人が言う。

「保険導入を検討するため先進医療会議は、粒子線治療の各医療機関に対して、X線治療などと比較できる医学的データを出すよう再三要請していました。ところが、医療機関ごとに、バラバラに都合のいい症例ばかり10件とか出してくるだけで科学的な証明に堪えうるデータはいっこうに提出されませんでした。やむなく、学会に依頼して各医療機関の治療成績を横断的に調査してもらったのです」

 学会の西村恭昌理事長は8月、先進医療会議でこう発言している。

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