埼玉県内でひとり暮らしをする安田トシ子さん(仮名・83歳)は、2014年3月に自宅で転倒し、それ以後、動くたびに腰に激しい痛みを感じるようになった。近くの整形外科を受診したところ、腰の部分の背骨の一つがつぶれて骨折する「椎体(ついたい)骨折」であることがわかった。

 背骨は、首から腰にかけて24個の椎体と呼ばれる骨が積み重なって構成されている。女性は閉経後に骨密度が急減し、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になりやすい。その結果、骨がもろくなるため、骨折しやすくなる。安田さんのように、椎体がつぶれる骨折は、高齢の女性に多発していて、圧迫骨折とも呼ばれている。お辞儀をしたり、カバンを持ち上げたりするなどの日常の生活動作だけで骨折してしまうこともあり、骨粗鬆症の人の多くが椎体骨折になっているという。

 椎体が前方部分だけつぶれた状態で固まってしまうと、背筋が前傾姿勢になる。高齢者が「腰曲がり」になるのは、このためだ。骨折しても強い痛みが出ないケースもあり、本人も気づかないまま腰が曲がっていく人もいる。

 安田さんは腰を固定するコルセットをつけ、痛み止めの薬と骨の破壊を抑制する骨粗鬆症の薬「ビスフォスフォネート」を処方されたが、日に日に痛みが強くなるばかり。「このまま通院していてもよくならないのでは」と思った安田さんは2カ月後、親族の紹介で、苑田第三病院東京脊椎脊髄病センターを訪ねた。車いすの状態で、

 
「腰が痛くて動けない。なんとかしてほしい」

 と、同センター長の星野雅洋医師に訴えた。X線撮影、MRI(磁気共鳴断層撮影)、CT(コンピューター断層撮影)による検査結果を確認し、星野医師は外科的療法を提案した。

「椎体骨折には、まずコルセットによる固定や痛み止めの薬などによる保存療法を実施し、それで7~8割の人が改善します。しかし、安田さんの場合、すでに他院で2カ月間、保存療法をして効果が出ていませんでした。痛みが悪化していく傾向にあったため、外科的療法をすべきだと考えました」(星野医師)

 痛みだけでなく、椎体のつぶれ方も判断材料になるという。変形した状態でそのまま骨が固まってしまうと、前傾姿勢になり転倒しやすくなる危険や、胃が圧迫されて食事が入らなくなったり、逆流性食道炎になったりする可能性もある。「保存療法をいつまで続けるかは、医師によって判断は異なりますが、最初1~2週間の効果の変化を見極めることが重要」と星野医師は語る。

 安田さんはすぐに入院して、骨の形成を促す骨粗鬆症の薬「テリパラチド」を投与され、椎体形成手術の一つである経皮的後弯矯正術(BKP)を受けることになった。11年1月に保険適用になった外科的治療で、大きく背中を切る手術に比べると傷が小さく、安全性も高い。

 
 BKPは、背中を2カ所、約1センチ切開し、そこから管状の器具を挿入して、つぶれた椎体の中に小さなバルーン(風船)を入れて膨らませる。できたスペースに骨セメントを注入して椎体の変形を戻して固める。椎体がつぶれてグラグラしている状態が痛みを引き起こしていると考えられ、セメントで固めて安定した状態にすると痛みもなくなる。全身麻酔を含め治療時間は1時間半程度で、問題がなければ3~4日で退院できる。

 BKPを受けた安田さんは、治療翌日には痛みがなくなり、歩行ができるようになった。

「昨日まで車いすで、立ち上がることもできない痛さだったのに、びっくり」

 と、安田さんはその効果に驚いた。しばらくはコルセットによって固定するが、2日後に退院し、支障なく日常生活を送っている。再び骨折をしないように、骨粗鬆症の注射薬は受け続けている。

「BKPの魅力は、即効性とからだへの負担が少ない低侵襲(しんしゅう)性です。ただし、椎体の破壊が大きい骨折などの場合、注入するセメントが漏れ出してしまうため、BKPの治療対象にはなりません。そのほか、神経麻痺(まひ)がある場合などもBKPの対象外で、大きく背中を切開する手術が必要になります」(星野医師)

 BKPは、専門の研修を受けた医師がいるなど、一定の基準を満たす医療機関で受けることができる。

週刊朝日  2014年7月11日号より抜粋