日本人間ドック学会などが4月に発表した血圧の基準範囲、147mmHg。これまで140mmHg以上とされてきた高血圧診断基準が“ゆるく”なったと勘違いした患者が治療をやめるという騒ぎになった。この「高血圧論争」を巻き起こした、日本人間ドック学会の数値。それを公表した意図は何だったのか。そして、その後の混乱についてどう思っているのか。論争の端緒を作った報告書をまとめた、同学会学術委員長の山門實(みのる)医師に、“本音”を聞いた――。

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 さまざまな報道が出て数字が独り歩きしてしまいましたが、私たちが本当にやりたかったのは、人間ドックの大規模なデータベースを用いて、性別、年齢別の「基準範囲」を作成することでした。現在、全国にある人間ドックの検査機関の基準はバラバラです。それでは、個々の判定まで異なってしまう。だからこそ、どの施設でも共用できる「基準範囲」を作りたいというのが目的でした。

 勘違いしてほしくないのですが、これは健康な人の集団でみた「検査測定値の幅」であって、病気かどうかを判別する「疾患判別値」ではないということ。血圧の147というのは、あくまで「測定値の幅」の最高値なんです。血圧は、上が140以上だと健康な人に比べて心筋梗塞などを起こす「相対リスク」は約3倍になるので、「疾患判別値」は140です。私たちは日本の診断基準であるこの数字を変えるつもりはまったくありません。

 また将来的には、年齢階級別の基準範囲を作り、経年的に検診の結果を追っていくことで、将来の病気の危険度予測をしたいと考えています。どの年齢でも、「健康な人の基準範囲」で正しく変化していれば、それは正常な加齢変化です。でも、ある年に数値が急に上がれば、「このまま上がり続ければ正常範囲から飛び出て、高血圧になる」と考えられ、医師が介入して生活指導などをできる。経年変化が、正常な加齢変化なのか、異常な変化なのかが一目で判別できるわけです。

 あと、申し上げておかなければならないのは、日本人間ドック学会のデータは、持病がない、たばこを吸わない、正常体重といった基準を満たした「スーパーノーマル」と呼ばれる健常な人を個体として算出した数値であるということ。たばこを吸っている、コレステロール値が高い、糖尿病があるなどリスクファクターがある人は、別の考え方をしなくてはいけない。心苦しいのは、147以下だから大丈夫だろうと、今まで飲んでいた薬を勝手にやめてしまう例が出ていることです。持病がある人は、かかりつけの医師に相談してほしい。それはずっと主張してきました。

 データを出すことで、今の医療に一石を投じたいという思いもありました。高血圧の治療には生活習慣改善と薬物療法があります。私は本当に薬物療法が必要な患者にしか薬は処方しませんが、医師によっては、140を超えたらすぐに薬を出す人もいる。正常な加齢変化で推移している人に対しての投薬が減れば、それは医療費の抑制にもつながります。今回、健康保険組合連合会と一緒に研究したのは、無駄な医療費を削減したいという意図もありました。

 147という数値が疾患判別値となるかは、今後5年間をめどに疫学調査をして見極めていきますが、現時点では、日本人間ドック学会の「基準範囲」と日本高血圧学会の「判定値」は異なる概念であることを、しっかり理解していただきたいと思います。  

週刊朝日  2014年6月13日号