アトピー性皮膚炎はかゆみをともなう湿疹があらわれるアレルギー疾患の一つで、原因はまだ明らかになっていない。アトピー性皮膚炎になった皮膚は乾燥しやすくなり、ちょっとした刺激にも反応して炎症を起こしてしまう。

 乳幼児期に発症することが多いが、約70%は小学校入学までには自然治癒するといわれる。しかし成人になっても炎症発作を繰り返す例や、思春期に再熱(病状がぶり返すこと)する例も少なくない。治療の中心は、ステロイド外用薬と保湿剤の塗布だ。

 東京都在住の上谷めぐみさん(仮名・19歳)は、幼少期にアトピー性皮膚炎を発症したが、6歳のときには病状がなくなっていた。しかし、15歳の高校受験時に再熱、悪化した。上谷さんは、かかりつけのクリニックから国立成育医療研究センターを紹介された。アレルギー科医長の大矢幸弘医師が診断したときには、全身真っ赤に湿疹が出て、かゆみで夜眠れず、受験どころではなかったという。

 大矢医師は当時から導入していた「プロアクティブ療法」で治療を試みた。この方法は、皮膚の病状がおさまってからも、ステロイドを使い続ける治療法だ。

 ステロイドは、アトピー性皮膚炎に効果のある薬だが、長期間、あるいは頻繁に用いると、皮膚が薄くなる、色素が沈着するなどの副作用のリスクが高くなる。そのため、病状が悪化したときだけ用いる「リアクティブ療法」が主流だった。

 軽い湿疹だけの軽症ならこれで改善されることもあるが、強い炎症をともなう中等症以上では、一時的に改善されても、数週間後に再熱することが多い。「ステロイドは効かない」「アトピー性皮膚炎は治らない」と言われるのも、この再熱率の高さのせいだろう。

 ところが最近の研究で、見た目の病状が消えても炎症が続いていることがわかってきた。これが再熱の原因だった。プロアクティブ療法では目に見えない炎症を完全に抑え込むまで、ステロイドを塗り続ける。「治療開始時には集中的に、上限量までステロイドを使い、その後は減らしていきます。再熱の頻度が低くなるので、トータルで見るとリアクティブ療法よりもステロイドの使用量は少ないと思います」(大矢医師)

 プロアクティブ療法には(1)目に見えない炎症を抑えられる(2)再熱のリスクを低くし、寛解維持の期間を長く延ばすことができる(3)再熱時も早めに対処できるので、ステロイドの量も少なく、軽度ですむ、という利点がある。

 減薬の方法は重症度や炎症の場所によって異なる。標準的な使用法があるわけではなく、医師の判断で減らしていく。また、免疫抑制剤であるタクロリムスという薬をはさみこむこともある。

 同センターでは年間約200人のアトピー性皮膚炎の新患を診ているが、そのほとんどがプロアクティブ療法で効果を上げているという。

週刊朝日 2014年1月24日号