俳優・奥田瑛二とエッセイストの安藤和津との間に生まれ、現在は女優として活躍する安藤サクラ。育ってきた環境を振り返り、自身のことを次のように話す。

「自由奔放な父が反面教師になってるのかなぁ(笑い)。…世間一般でいう“普通”っていうのをずっと追求してる気がします…」

 芸能一家に育った。世間からは羨望(せんぼう)の的だったが、周囲のそういう目線に常に違和感を抱いていた。

 それでも安藤は幼いころから役者に憧れ、高校時代に父と同じ道に進むことを決意した。2007年に「風の外側」で映画デビューすると、10年にヨコハマ映画祭助演女優賞、11年にはキネマ旬報助演女優賞など数々の映画賞を受賞。独特の存在感と演技力は、いまや日本映画界に欠かせない存在となった。

 インタビュー中、安藤が「私が話したいこと」として語ったことがある。主演映画「かぞくのくに」が、10月6日に韓国の釜山(プサン)国際映画祭で上映されたときの話だ。

「かぞくのくに」は、1959年末から84年まで、在日コリアンと配偶者ら約9万人が北朝鮮に移住した「帰国事業」を背景にしている。

「どの国で上映されるよりも、韓国でこの映画が上映されたことに意味を感じました」

 監督は在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ。脚本は、ヤンの兄が帰国事業で北朝鮮に渡った実体験をもとにしている。安藤は、ヤンをモデルとしたリエを演じた。

「なんだかもう個人の力ではどうにもならないことって、わんさかある! でも人の魂の奥にある何かを動かせれば、そういうドデカイ問題も動くのかな、と。『かぞくのくに』を釜山映画祭の客席で見て、その熱量を全身で受けて、映画にはその力があるとあらためて感じることができました」

週刊朝日 2012年12月7日号