ジョージ川口『スーパー・ドラムス』
ジョージ川口『スーパー・ドラムス』

●同じ内容のジャケ違いを集める伝統

 2012年の日本ではCD生産数量が14年ぶりに増加したのだそうです。 「ああ、アイドルのおかげなのだろうなあ」と、私は思います。オリコンの統計を参照するならば、年間売り上げ上位を占めているのは、ほぼAKB関連とジャニーズ関連です。日本の音楽マーケットの何割かを支えているのはアイドルであり、初回盤AとかBとか通常盤とか、パッケージは違えども実質的には同じ作品を握手会への複数回参加などの目的で何枚も買うアイドル・ファンです。

 私も何度、「中身がおんなじCD、いくつも買ってどうするの?」とアイドル・ファンに尋ねたくなったことでしょう。でも尋ねる直前で踏みとどまりました。同じコンテンツのものをジャケ違いで集めるのは、ジャズ・ファンの伝統的な得意技じゃないですか。『サキソフォン・コロッサス』のジャケ違いを集めるとか、『オーヴァーシーズ』をEPとLPで揃えるとか。マインドは同じなのだと思います。

●「潤い」がモチベーションを生む

 2012年、キングレコードから昭和期の自社制作ジャズ・アルバムが60枚、復刻されました。実はこれに似たようなプランを、私は数年前、同社に提案したことがあります。白木秀雄のキングレコード盤が探し求められていたころの話です。当時のディレクターの答えは、だいたいこうでした。「昔の日本のジャズなんて、商売にならないって。関心を持ってくれるのは、ほんの一部ですよ」。

 では今、当時と比べて、昔の日本のジャズに関心を持っている層が激増したのでしょうか?

 まさか、そんな夢みたいなことはないでしょう。そんなことがあったら世の中、もっと楽しいですよ。同社にはAKBがいて、その中にあるスターチャイルドというレーベルには、ももいろクローバーZがいます。要するに会社がうまいぐあいに回っているのだと思います。以下は私のまったくの想像ですが、会社が潤えば、それがボーナス等にも反映され、ちょっと汚れていたソファーやじゅうたんが新調されて、社員のやる気も出て、女子社員が2割増しぐらいにかわいく見えてきて、「そんじゃ昔の日本のジャズでもドバーッと復刻しようか」というモチベーションにつながっても、おかしくありません。

●30年前には2800円だったLPが、今は1500円のCDとして手に入る

 わたしも件の復刻シリーズ、いくつか入手しました。アナログ盤時代、たとえばジョージ川口の『スーパー・ドラムス』は2500円、鈴木勲と菅野邦彦の『シンシアリー・ユアーズ』は2800円で売られていました。1970年代後半から80年代前半にかけての新譜の値段は、だいたいこんな感じです。ウェザー・リポートもパット・メセニーもハービー・ハンコックもマンハッタン・トランスファーも皆、新譜はこんな値段です。

 そうなるとやっぱり、たいがいのファンは「世界的な話題作」を優先して買うでしょう。そうなると、日本のジャズまでなかなか手が回らない。私もそのひとりでした。

 聴きのがしていたアルバムに、オリジナル・リリースから約30年ぶりに、しかも当時の約半値の商品として出会う。なんだか不思議でもあり、とても嬉しいことでもあります。