
限界集落株式会社
「どんと来い、TPP。信州、東北で大大ヒット!」という帯のコピーが効いたのか、発売1週間で累計10万部の売れ行きらしい。黒野伸一『限界集落株式会社』は人口の過半数を65歳以上の高齢者が占め、戸数37戸の過疎の山村を舞台にしたエンターテインメント小説だ。 主人公の多岐川優は東京のIT企業をやめ、愛車であるBMWの7シリーズを駆って、かつて亡き祖父が住んでいた山間の止(とどめ)村にやってきた。マクドもスタバもセブン-イレブンも郵便局も学校も診療所もない村。英気を養うだけのつもりだった優は、住民のやる気のなさを見て奮起。集落営農で耕作を効率化し、JAを通さず作物を販売する農業経営に乗り出した。稲作をやめて減農薬野菜の直接販売をスタートさせ、経営は徐々に軌道に乗るが……。 有川浩『県庁おもてなし課』、真保裕一『ローカル線で行こう!』などと同じ、都会から来たヨソモノが地方の活性化に立ち上がる地域再生物語である。小説としてはおもしろかったが、ほんとにこれで「どんと来い、TPP」となりますかね。 本書から過疎の村が復活再生するための条件を考えてみると……。 〈1〉体力と気力のある若者や壮年がいる(本書では優をはじめ、農業に命をかける美穂、美穂の父の正登、元ホステスのあかねらがいる) 〈2〉体力も気力もないが能力のある若者がいる(HPを担当する三樹夫とマンガが得意な千秋がいた) 〈3〉ゆるキャラがヒットする そう、この小説では千秋が描いた「ベジタ坊」が秋葉原で人気を博し、止村テーマパーク化計画へとつながるのだ。ううむ、アキバ頼みかぁ。「あまちゃん」もそうだけど、いまやアキバ系のオタクが地域経済活性化の鍵を握っているらしい。 〈ベジタ坊がメジャーになれば、村の知名度も上がる〉。〈ベジタ坊のおかげだよ〉。全国各地の自治体がゆるキャラの制作に血道を上げるはず。とはいえ高齢者の活躍の余地がないのが、致命的である。