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「今週の名言奇言」に関する記事一覧

何者
何者 就活生にとって大学3年の2月・3月は繁忙期らしい。しかも今般の就活の煩雑なこと。大学生の親にいわせると「この程度の事務処理もこなせない学生はわが社にいりませんってことなのよ」というのだが。  今期の直木賞を受賞した朝井リョウ『何者』はそんな「いまどきの就活」を追った長編小説だ。  ES(エントリーシート)を出しまくり、WEBテスト(自宅パソコンで受験するテスト)を受け、その後もグルディス(グループディスカッション)あり、クリエイティブ試験(想像力をみる試験)あり。  作中人物も疲れてつぶやく。〈もうパワーゼロって感じ〉  朝井リョウは集団を描くのが得意な作家で、『何者』にも5人の就活生が登場する。TOEIC、海外留学、インターンシップ等、有利なカードを何枚も揃えて自己PRに余念のない女子学生。プチ文化人気取りで〈俺は流されたくないんだよね〉などとうそぶく男子学生。お互いの前では本心を明かさず、ツイッターやフェイスブックで互いの腹をこっそり探り合う若者たち。 〈俺さ、就活って内定出たら終わりって思ってたけど、ちげえわ〉とは、いち早く内定の出た男子がふともらす台詞である。〈俺、今日会った同期と、今日行った会社で、ずっとずっと働くんだよな〉  日本中の会社員から「あたりめぇだろー!」というツッコミが入りそうな台詞だが、でもこういう学生があなたの会社に入社してくるわけですよ。っていうか、彼らにこういう就活を課しているのが、あなたの会社だったりするわけだね。  もっとも、ここで描かれるのは一流大学の学生たちの生態である。家族も大学の教員も会社の人事担当者も、それどころか他大学の学生も非正規労働にあえぐ同世代も出てこない、蛸壺の中のバトル。家庭の事情で堅実な選択をしたとされる学生も客観的には羨ましい結果。私が現役の学生だったら(学生の家族だったとしても)、ひがむね、絶対。
スタッキング可能
スタッキング可能 当代きっての小説家・批評家ら10人のオーバーデコラティブな賛辞が並ぶ帯を見て、ちょっと引いた。  いや、いいんですよ。松田青子『スタッキング可能』は、実際、超絶おもしろい短編集だから。  ただ、新人作家を褒めちぎりすぎるのも考えものだ。一昨年の芥川賞受賞作・朝吹真理子『きことわ』も同じ目にあった。今期芥川賞受賞作・黒田夏子『abさんご』もそうなる可能性あり。つまり「なんで激賞されてんのかわかんない」「そもそも作品がわかんない」という読者の反発を招きかねない。『スタッキング可能』は(先の2作も)皆さまが考える「ノーマルな小説」と流儀の異なる前衛的な作品だからだ。  まず、本をお買い求めになったら表題作はスルーして、「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」と題された3つの連作を読んでみよう。これはね、何を隠そう、漫才の台本なんです。それも女子漫才。ハリセンボンでもアジアンでも北陽でもいい、このまま演じてほしい。またはこれを演じる女性漫才師をデビューさせたい。〈私たち[ちふれ]は戦う女性の味方です!〉。コンシーラーだのネイルだの「パール1個分」だの、コスメまわりのネタは、もう「あるある」感がいっぱい!  肩があったまったところで「もうすぐ結婚する女」を読む。題名通り「もうすぐ結婚する女」を「私」が観察する話だが、あれあれあれ、途中であなたは必ず驚く。「私」って誰!? 「私」は1人なの? 松田青子は企みに満ちた作家なのだ。  そしてようやく表題作。松田青子のアバンギャルドな流儀に慣れたあなたなら、きっと読みこなせる。書店のポップには「職場にオランウータンがいる『あなた』のための小説です」とあった。みんな戦う勤め人。オフィスに渦巻く声なき声が怒濤のように押し寄せてくる。  上に掲げたのは、くだんの漫才台本の一節。このフレーズを叫びながらデモをしたい。「資本主義を打倒するぞ!」の意味である(たぶん)。
55歳からのハローライフ
55歳からのハローライフ ベストセラーになった『13歳のハローワーク』の中高年版かと思ったら、村上龍『55歳からのハローライフ』は、意外にも5編の小説を集めた連作中編集だった。  村上龍にはやたらと大風呂敷な作品とヘタレな小市民を描いた作品とがあって、本書は後者。作者の年齢も反映してか、主人公はすべて55歳オーバーの中高年である。  熟年離婚してみたが、将来が不安で婚活に精を出す女性(「結婚相談所」)。キャンピングカーで妻と全国を回ろうと早期退職するも、乗り気でない妻にがっかりする元営業マン(「キャンピングカー」)。中高年の現実はもっとシビアだと思うが、そこはまー小説だから。特に秀逸なのはこれ。アラ還の片思いを描いた「トラベルヘルパー」である。  「おれ」は63歳。元長距離トラックのドライバーである。若い頃に離婚したので一人暮らし。昔は遊興に明け暮れたが、60歳で運送会社に切られ、金がない現在は100円で買った古本の文庫を読むのが唯一の趣味だ。いまは松本清張を読んでいる。そんな「おれ」が古本屋で出会った50がらみの女性に恋をした。  ファミレスに誘い『砂の器』の話になった。野蛮な男と思われないか。彼は考える。〈現役のころはヤクザ映画かアクション映画しか観なかったし、本など読む気にもなれなかった。だが、そんなことを知られてはならない。おれは、男の中の男の仕事であるトラックドライバーであって、しかも読書好きなのだ〉  いいねえ。『69』に登場する高校生がそのまま60代になった感じ。  トラックドライバーで、しかも読書好き。それはねえべ、と考えるのは職業的な偏見である。彼女相手に「おれ」は日本経済の現状を講じたりもできるのだ。〈現役のころは、こんな話はできなかった。週刊誌ネタと下ネタばかりだった。孤独に耐えて読書した甲斐があった〉  年とると男はみな純情な少年に戻るという錯覚を起こしそう。ほんとにそうだったらいいんだけどね。
解決する力
解決する力 雑誌の連載コラムでもブログでも、書き手がどこかの党派に属したり何らかの公職につくと、書くものが急激におもしろくなくなる。  かつて「週刊文春」に連載されていた猪瀬直樹「ニュースの考古学」が急激につまらなくなったのは、小泉政権下で道路関係四公団民営化推進委員会の委員に就任した頃からだった。毎週毎週、道路、道路、道路の話。やっぱライターはさ、無責任な立場で無責任なことを書き散らしているのが一番よ。  さて、その猪瀬氏も出世をとげ、いまや泣く子も黙る東京都知事だ。副知事時代の昨年11月に出版された『解決する力』は「立場が人をつくる」が実感できる本である。  官僚化した東京電力との闘いを語り、電力不足を訴え、石原慎太郎都知事(当時)の尖閣諸島購入案を支持し、東京五輪の意義を力説する。これって東京都政のPR? 都知事選の選挙公報? いやいや、本人によれば〈『言葉の力』『地下鉄は誰のものか』『決断する力』でさらに説明責任を果たしているところだ〉。  自著を評して説明責任ときたもんだ。さすが権力の座についた人は、いうことがちがうね。『三四郎』の広田先生に「日本は滅びるね」といわせた漱石を「(国家の)家長」の自覚がないと叱るあたりも、天下国家を見すえている方ならではだ。  さらに特に感心したのはここ。〈石原さんは80歳だが70歳に見える。僕は50歳くらいですかと訊かれる〉。なんと若さ自慢である。自慢ついでにもう一言。〈意志のある生き方と漫然と流されるだけの生き方と、歳の取り方の結果は明らかに異なると思う。僕は65歳で東京マラソン初挑戦・初完走した〉  前任者にますます似てきた新都知事。新年早々、五輪招致PRでロンドンに赴いた際には記者会見で「僕自身がスポーツマンであること」をアピールポイントにあげた。若さ自慢、体力自慢は本気だったんだ。『50歳を超えても30代に見える生き方』の南雲吉則先生みたい。

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