松任谷由実「数字的最盛期をああだこうだ言った人たちは、みんな滅びた(笑)」
松任谷由実(まつとうやゆみ)/ 1954年、東京都出身。72年、荒井由実として「返事はいらない」でデビュー。翌年、ファーストアルバム「ひこうき雲」をリリースし、注目を集める。以降も、「やさしさに包まれたなら」(74年)、「ルージュの伝言」(75年)、「春よ、来い」(94年)などのヒット曲を次々生み出す。そのほか、本名や呉田軽穂名義で他のアーティストへ作品提供も行っている。2022年、50周年記念ベストアルバム「ユーミン万歳!」をリリースした。(撮影/写真映像部・加藤夏子)
若い世代の「荒井由実」人気を中心に、6度目のブームとなっている松任谷由実さん。
昨年発売した新曲「Call me back」では、AIで再現した「荒井由実」とのデュエットを披露するなど、さまざまな試みも。作家・林真理子さんとの対談では、自身の50周年を語るとともに、新たな挑戦についても語ってくれました。さらに大学業務で多忙をきわめるマリコ理事長に向け、クリエーター・ユーミンからも鋭い質問が──。
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林:この50周年、世間って思ってたよりすごかった、ということあります?
松任谷:うん。「そこまで浸透してたのかな」と思って。
林:若い人たちは、ジブリなんかでよく知ってるんですよね。
松任谷:そう。ありがたいよね。
林:世代を超えて。
松任谷:世代を超えてといえば、ストリーミング(ネットに接続してダウンロードしながら動画や音楽を再生する方法)になったことね。何がいつリリースされたかが問題じゃなくて、出会ったものが新曲。だから多作でよかったと思う。何かに出会ってくれるから。
林:いまの若い人たち、どのへんの曲が好きだと言ってます?
松任谷:いまは「荒井由実」が中心かもしれない。70年代好きが多いしね。ただ、70年代終わりには、今評価されているCity popは既にやっていたけどね。林さんが言う「若い人たち」って40代でしょ?
林:20代かな。女子大生なんかにもユーミンファンがすごく多くて、「カッコいい」とか「ステキ」とかこのあいだもテレビで言ってたから、「そうだろ、そうだろ」って私なんかうれしくなっちゃった。
松任谷:うれしくなってくれるのがうれしい、林さんとかが。
林:「あんたたちの世代でこんな人いる?」みたいな感じ。
松任谷:林さんがそんなふうに言ってくれるから、こうして対談にもやってくる(笑)。バブルのころ踊らされてたのに、私をまるで戦犯のように「あれは一体何だったのよ」みたいな感じの女性記者もいるよ。そのときの自分を恥じてるかのような人たち。
林:そんな人たちがいるなんて。処刑だよ、処刑(笑)。
松任谷:アハハ(笑)。踊ったのは私じゃなくて、自分だもんね。
林:そういう人たちは消えていく運命だよ。
松任谷:そう思う。数字的最盛期のころのことをああだこうだ言った人たちは、みんな滅びてる(笑)。だって嫉妬から言ってるんだもん。私に嫉妬したら疲れるよ。ボールを壁打ちしてるようなもんで。だって、はじめから違うんだもん、存在が。偉そうに言ってるわけじゃなくて、自分の中から出てきてるものをやってるだけだから、批判の対象になり得ない。そんなところに食いついても、自分のエネルギーを無駄にするだけ。最盛期、第4次ブームぐらいのとき、ほんと風当たりが強かったよ。80年代後半から90年代。
林:このごろいろいろなものの形態がどんどん変わってきたし、CDも本も売れないし、テレビだって視聴率10%超えたら御の字じゃないですか。世の中がそんなふうに推移してるんだから……。
松任谷:わかりやすく言っちゃえば、物から事へ移ったりとか、さっき言ったように3次元的なことではなく、5次元を目指して、そういう記憶を自分の中に蓄積するというか。
林:ユーミンって年をとらないし、体力も落ちてないでしょう?
松任谷:落ちてはいるけれど、すぐ自分にアラームが鳴るから、反応が早いとは思う。「ヤバいな」ってことにすごく早く気づくので、自分と毎日向き合ってる。トレーニングもしてるし。
林:矢沢の永ちゃんが「ロックシンガーはフォルムだからね」って言ったけど、確かにそうですよね。パッとライトが当たったときに、太ったおばさんだったらまずいもんね。
松任谷:そうね。特にいまAIと共演してると、AIとの親和性が高くないとね。私だからアバターをつくれると思う。もっとアバターが一般的になってくれば、いろんな形のアバターが出てきていいけれど、いまは差し当たって最先端に見せるためにも、自分の(体の)ラインをちゃんとしておかないとね。
林:すごいと思います。「こういうストリートファッションするには、体形がきちっとしてないと着れないよ」って何かでおっしゃってるのを聞いて、ため息のみですよ。
松任谷:ブランドだって、一発でわかるようなのを着てると老けるよね。
林:モノグラムがついたやつですね。昔、ユーミンがアライアを着てて、世の中の女の子がアライアに憧れて、私も南青山のフロムファーストビルに見に行って、「これがユーミンが着てるアライアというものか」と思ったことがありますよ。
松任谷:「布の彫刻師」と言われたね。
林:おしゃれとか、いつも挑戦してるところは変わってませんよね。
松任谷:好きだからね、洋服。
林:この50年間、たまりにたまったお洋服はどうしてるんですか。
松任谷:たまる一方なんですよ。
林:メルカリに出そうなんて思わない?(笑)
松任谷:アハハ。あんまり思わない。愛着がある。それぞれに思い入れが強いから整理できないし、体形も変わってないから役立つの。頭の中がインデックスになっていて、「そういえばあれがあったな」って。きょう着てるのなんて、20年前にミラノで半分つくったグッチのスーツなんだけど、最近「荒井由実」が何かとフィーチャーされることがあって、荒井由実時代にパンツスーツをよく着てたんですよ。だからスーツ率高いです、このごろ。
林:いまに「ユーミン博物館」ができたときに、ユーミンのお洋服がダーッと並んで……。
松任谷:博物館はつくらない。そういう3次元的なものは意味がない。絶対なくなる。石原裕次郎記念館もなくなったし。ハコモノはダメ。だから歌をやっててよかったの。人の心に入り込めば、死ぬまで持っていけるんだもん。どこにでも運べるし、風のように街を漂ってるし。
林:「私が死んでも私の歌は残ってほしい。その願いがかなえられつつある」ってこのあいだテレビで言ってましたよね。
松任谷:そうね。まあ、一里塚ぐらいかな(笑)。
林:この先やりたいことがいっぱいあるんでしょう?
松任谷:続けることが夢ですね。それは自分のモチベーションにかかっている。もしやめても誰からも文句言われないし、雇用も十分創出してきたし、あとは自分自身がクリエーターとしてどのぐらいやっていけるかだけ。だから自分の問題。
林:このごろ「コンサートやめる」って言う人がいるけど、ユーミンはそんなことないですよね。
松任谷:ま、いつかはやめるときがあるけれど、わからないようにやめる、私は。
林:コンサートのとき、踊るの大変になってきました?
松任谷:そんなことない。そのときの自分に合ったしつらえになってるし、踊りだって変化してきてるしね。エッセンスさえ自分で取り込めればいい。話は変わるけど、林さん、日大の理事長に着任されるとお忙しいでしょう?
林:すごく忙しい。朝から晩までですよ。みんな「どうせ週に3回行くぐらいだろ」とか思ってるけど、私、毎日行ってますよ。まあ、たまに自分のスケジュールが入りますが。
松任谷:でも、ちょっとおもしろそうだな、というところから入ったんじゃないの?
林:かなりおもしろそうだと思った。だから一生懸命やってるし、けっこう楽しい。
松任谷:痛いところ突くかもしれないけれど、要職に就いて書くということから遠ざかってしまうと、危機感、感じたりするでしょう。
林:危機感、感じる。私は職人みたいな作家で、常に肩慣らしをしていかないと書けないから。このあいだ短編を二つ書いたけど、ほかの人が連載してるのを見て「いいなあ」と思うし、悔しいから、これからは理事長室で書けるように態勢を整えようと思ってる。そうじゃないと困っちゃう。私だって1冊ぐらい残して死にたいわよ。
松任谷:いや、残るものはいっぱいあると思うけど。
林:残らない、残らない。これから残るものをつくらないと。
松任谷:文学にしろ映画にしろ接するのが大変じゃない。そういう意味ではポップスって有利だなと思う。口ずさめるんだもん。小説を書くのって、体力もモチベーションもものすごくいると思う。
松任谷由実さん(左)と林真理子さん(撮影/写真映像部・加藤夏子)
林:ところで、プライベートのこともちょっとお聞きしたいけど、外食に行ったり飲みに行ったりすることある?
松任谷:あんまりない。早寝早起きになっちゃってるし。
林:私は、そうは言っても毎日外食のお誘いがある。
松任谷:すごい体力よね、林さん。
林:すごくある。それで夫に怒られ、夫とバトルする体力も(笑)。
松任谷:ほんとは怒ってないんじゃない? 林さんのご主人。
林:怒ってるよ。松任谷正隆さんみたいなやさしいご主人、ほんとにうらやましい。
松任谷:とんでもないですよ。やさしそうに見えるけれど真逆。
林:そうなの? 信じられな~い。そこをもっとお聞きしたいけど、あー残念。時間が来ちゃった(笑)。お体、気をつけてくださいね。私たちの人生の指標だから。「ユーミンがこれだけ頑張ってるんだから私たちも頑張ろう」と思って頑張ってるんだもん。
松任谷:ほんと? ありがとう。
(構成/本誌・唐澤俊介 編集協力/一木俊雄)※週刊朝日 2023年1月27日号より抜粋
週刊朝日
2023/01/21 11:30