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中学受験の「英語入試」実施校が8年で10倍に それでも「御三家」クラスの学校が取り入れない理由は
写真はイメージです(Getty Images)
社会の急速なグローバル化とともに「英語」の需要が高まり、小学校では2020年度から英語が必修化されました。中高一貫校でも英語教育に力を入れ、入試に取り入れる学校も増えています。22年度入試では、英語を必須科目にする学校も出てきました。英語入試が解禁されたといわれるなか、今後どうなっていくのでしょうか――。「中学入試の今」を追うAERA dot.の短期集中連載4回目は、英語入試の実態を取り上げます。
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■社会のニーズに呼応して英語入試も拡大
首都圏模試センターの調べによると、22年度入試で何らかの形で英語入試を行った学校は、146校だった。14年度は15校だったので、この8年で約10倍に増えたことになる。英語入試に詳しい、森上教育研究所のアソシエイトコンサルタント・高橋真実さんは、社会的な背景が大きいという。
「保護者は仕事を通じて、今の社会で英語がどれだけ必要か痛感しています。新しい学校では校名に『国際』を付けたり、また既存校もグローバルコースを設けたりして、英語を重点的に学び、留学や海外研修のプログラムも増やしている。また、幅広く受験生を取り込みたいという学校の思いもあり、英語入試を導入する学校が増えてきたのです」
大学入試も関係している。結果的に見送りになったものの、大学入学共通テストに英語の民間試験を課すことが発表されたときには、私立の中高が敏感に反応した。
「大学入試の観点から見ると、今は文系でも理系でも英語は重要。どちらに進むにしても英語が抜きん出ていれば有利です。進学実績を上げるためにも、学校としては英語力のある生徒がほしいのです」(高橋さん)
同研究所の代表・森上展安さんによると「帰国生入試に該当しない生徒を取り込みたいという学校の思惑もある」という。私立中学校の「帰国生入試」の受験資格は、おおむね「海外在留1年以上、帰国後3年以内」というのが平均的な条件になっている。つまり、資格に該当しないものの高度な英語力を身につけている帰国子女や、インターナショナルスクールに通っている児童などが、ターゲットとなる。
英語入試の実施方法は、学校によってさまざまだ。必須科目のひとつとして国・算・英などのように他教科と組み合わせたり、あるいは選択科目として選ばせたりする方法もある。
「ペーパーテストだけでなく、英語を使ってゲームをしたり、自己アピールを英語でしたりするなど、アクティビティー形式に寄せている学校もあります」」(高橋さん)
英検などの資格を選考に利用する学校も多い。点数として換算したり、英検2、3級の資格保持者には英語試験を免除したりするケースも。最近増えているのが2科(国・算)、4科(国・算・理・社)の合計に、英検の級に応じて5点や10点を加算するというやり方だ。国立の筑波大学付属駒場と筑波大学付属でも、22年度入試から、志願者の報告書に従来の8科に加えて英語を追加した。
入試レベルも学校によって差がある。
「英語入試を課している学校の先生方に聞くと、受験者の英語レベルは年々高くなっており、英検2級程度の受験生が増えていると話しています」(高橋さん)
慶応湘南藤沢や広尾学園のインターナショナルコースアドバンストグループでは、準1級程度の問題が出題されるという。
一方、22年度入試より、江戸川学園取手が英語を教科型と適性型入試の必須科目にしたことで注目された。サピックスの教育事業本部本部長・広野雅明さんは、次のように話している。
「これまでの英語入試は難易度が高く、英語が得意な受験生にとって、英語を選択できることで受験がしやすくなるという役割も担っていた。それが受験生全員に英語を課す、新しい入試が始まったと言えます」
江戸川学園取手の英語の入試問題は小学5~6年で習う内容に準じており、難易度はそれほど高くなかったようだ。受験生全体の平均は50点満点中46点で、合格者はほぼ全員が満点に近く差がつかなかったという。
同校入試担当の遠藤実由喜先生は「小学校の教科として必修化されたことを受けて、22年度より入試に取り入れました。英語に興味・関心を持ち、かつ小学校の授業を大切にしてほしいという、本校のメッセージ。20分のリスニングの試験で特別難しい問題ではありません。楽しんで挑んでほしい」と話す。
「御三家」クラスの超難関校は、今のところ英語入試を取り入れる気配はない。
「4科入試の対策は、小学生にとってハードです。御三家クラスのレベルで英語を課すと、受験生にとって相当な負担になる。しばらくは4科でいくのではないでしょうか」(森上さん)
広野さんも次のように話す。
「英語は海外生活体験の有無など家庭環境で差がつきやすい教科で、中学入試段階で入れてしまうと英語だけで勝負がついてしまう可能生もゼロではありません。現時点では、今までのように4科で思考力や表現力を判断したいのでは」
グローバル化と相まって英語入試が広がり始めているが、入試の在り方が定まるのはまだ先のようだ。
(ライター・柿崎明子)

中学受験で「算数1科入試」が女子校に広がる理由とは 「文系」のイメージに変化
写真はイメージです(Getty Images)
かつては「文系」のイメージもあった女子校の理系化が進んでいます。大学では2022年度に奈良女子大学が日本の女子大として初めて工学部を創設し、24年度にはお茶の水女子大学が共創工学部(仮称)を創設する予定です。また24年度から東京工業大学が女子枠を設けるなど、女子の理系人材育成に力を入れています。女子中高でも、理系教育に本腰を入れ始めています。その動きは入試にも反映されており、女子校で算数1科入試を導入する学校が増えています。学校の狙いはどこにあるのでしょうか――。「中学入試の今」を追うAERA dot.の短期集中連載3回目は、女子校に広がる算数1科入試について考えます。
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■算数1科入試は文部科学省の理工系人材育成強化の影響も
そもそも算数1科入試は男子校から始まった。先鞭をつけたのは攻玉社で、1994年度に導入しており、すでに30年近い実績がある。その後、巣鴨、世田谷学園、高輪、鎌倉学園などの男子校も始めたが、女子校には長らく波及しなかった。その理由を安田教育研究所の代表・安田理さんは、「女子は算数が苦手という先入観があり、算数入試は受験生が集まらないと考えたのでは」と話す。
算数1科入試を女子校が初めて導入したのは2018年度で、品川女子学院と大妻中野が実施。予想外に志願者が集まったため、他の女子校も実施するようになった。現在は田園調布学園、富士見、普連土学園、山脇学園、湘南白百合などが導入している。近年は共学校でも増えている。
算数1科が女子校に広がった背景を、安田さんは次のように分析する。
「社会的な背景もある。今の日本の課題はグローバル化とデジタル化です。特にデジタル化は他の先進国に比べて1周遅れの状態で、国としても理系の人材を育てたいという狙いがある」
学力の高い志願者を増やしたいという学校の思惑もあるようだ。通常の入試とは別に午後入試として設定している学校が多いのは、負担の少ない1科入試を設けることで、午前入試を終えた受験生の併願を見込んでいるのではないか。さらに安田さんはこう話す。
「算数が得意な生徒を入学させることで、その生徒が牽引し数学の授業を活性化させてほしいという期待もあります。学校は国公立大の進学実績を増やしたいと思っていますが、国公立大の定員は圧倒的に理系が多い。実績を伸ばすためには理数に強い生徒を育てる必要があり、そのためにも算数が得意な生徒に入学してほしいのです」
算数1科入試の募集人員は各校とも5~20人程度。入試問題の難易度は学校によってさまざまだ。2科、4科入試の算数とほぼ同レベルのところから、文章題に特化した思考力を要する難度の高い問題を課すところまで差があるので、受験を目指すなら過去問はチェックしておきたい。
今のところ、算数1科入試で入学してきた生徒を対象に特別授業を行っている学校はないようだ。
「たとえば英語入試で入学してきた生徒の場合、英語は実力差が大きいので習熟度に分ける必要がありますが、算数は2科、4科の生徒とそれほど大きな開きがあるわけではないので、その必要はないのです。そもそも定員が少ないので、算数1科入試の生徒だけでクラスを編成するのは難しい」(安田さん)
算数1科入試を行っている学校の調査によると、入学した生徒は概して他の教科の成績も良いという。20年度から算数1科入試を始めた富士見の入試広報部長・藤川建先生は、導入にあたり「過去10年間の算数と他教科の相関関係を調べたところ、算数の成績が良い生徒はおおむね4教科とも平均して高いことがわかりました」と話す。
「さまざまなタイプの受験生に来てほしい」(藤川先生)という狙いどおり、同校では実際に、この3年で受験者層の幅が広がったという。
同校の算数1科入試の問題は大問3題で構成されており、問題用紙内に計算できるスペースを広くとっている。作問について、数学科の福田修平先生は次のように話す。
「何を目的に問題を作るか教員同士が話し合い、算数1教科でさまざまな力を測りたいという結論に達しました。そこで文章題に限定し、リード文を読解して必要な情報を探し出し、試行錯誤して解いていくような問題にしました」
藤川先生は「難問が出題されるのでは、と思う受験生も多いようですが、決してそうではありません。基礎となるのは、中学入試に向けて取り組んできた学習です。多角的に考える力、粘り強く取り組む姿勢がある生徒にトライしてほしい」という。
23年度は日本大学豊山女子が実施する予定で、今後も増えていきそうだ。「女子は算数が苦手」のイメージも、過去の話になりつつある。
(ライター・柿崎明子)


