「小説を面白がるのに決まったやり方があるわけじゃない」。なんとも心強い主張の下、明治の大文豪のとっつきにくいイメージがみるみるうちに解体されていく。教科書や国語便覧にはけっして書かれていなかった、昂揚感あふれる名作の愉しみ方を教えてくれる一冊だ。
 著者は『「吾輩はである」殺人事件』をはじめ、パスティーシュやパロディの名手としても知られる奥泉光。彼の手にかかれば、『坊っちゃん』は「中二病」ないし「コミュ障」の物語に、『こころ』にいたっては「国民的ネタバレエンタメミステリー」(!)として捉え直されることになる。他にも「最初から最後まで全部読む必要なんてない」「物語の流れを理解していなくてもかまわない」等々、読書そのものに対するイメージが一新される。
 読書が人生の役に立つかどうかはわからない。けれど、「人生は読書の役に立つ」。中学生以上を対象にした「14歳の世渡り術」シリーズの一冊だが、そのユニークな視点と柔軟な発想は、氾濫するコピペ情報にがんじがらめになっている私たちにこそ必要なのでは。

週刊朝日 2015年7月24日号