フランスでの料理修業を経て「天皇の料理番」である宮内省大膳寮主厨長に就任し、日本のフランス料理普及に貢献した秋山徳蔵が蒐集した宮中晩餐会などのメニューを、ふんだんな写真を使って解説とともに紹介した本である。
 すっぽんのコンソメやうずら、フォアグラなどが供された明治憲法発布の大宴会、トリュフたっぷりのビーフや羊の鞍下肉などが食卓に上った不平等条約改正を祝う晩餐会などのメニューを見ると、日本が料理の面でも一等国に仲間入りすべく努力を重ね、同時に、フレンチにはない食材を応用して新しい料理を創作する努力をしていたこともよくわかる。
 また、ツバメの巣を使ったフランス料理が出た満州国皇帝の溥儀の来訪、秋山が得意とした冷たいイセエビが供された開戦直前の日米交渉への布石の食事など、メニューの存在によって、日本の近現代史がぐっと身近に、リアルに感じられる。
 国家による饗宴はすぐれて政治的であると言うが、まさにそのことを痛感する、極めて興味深い一冊である。

週刊朝日 2013年2月1日号