応仁の乱の後、京の都は荒廃し、そこには博打に明け暮れる「ならずもの」である足軽がどこからか湧いてきた。本書では足軽がなぜ誕生したかを議論の出発点に「空白の時代」とも呼ばれる15世紀の日本の実態を明らかにする。政治的、風俗的な側面だけでなく、経済の視点から室町時代の歴史を考察している点が興味深い。
 地方の荘園の支配形態の変化から、居場所を失った人や金が一気に京に流れ込んだことで都は大きく変容する。当然、その背景には公家や武家の莫大な利権を巡る争いがあった。著者は資料を丹念に読み解くことで、足軽の出現が複雑な政治力学の落とし子であることを示す。
 都が荒廃し、戦国時代に突入していく直前の当時の先行き不透明感は現代と通じる。有力な武家に対しても歴史に埋もれた足軽に対しても変わらない著者の目線の低さが、本書を室町時代の政治史に終わらせず、現代をも照らす。揺れ続ける政治に翻弄され、漂流する足軽が現代の我々庶民の姿と重なって見えてしまうのは気のせいではないだろう。

週刊朝日 2012年12月21日号