撮影:岡田敦
撮影:岡田敦

いま、まったく予想外のことが起きている

 岡田さんが島に通っているうちに12頭いた馬は急激に数を減らし、3頭になった。そして、「いま、まったく予想外のことが起きている」。

「意図していたわけではまったくないんですが、ぼくが写真を撮ってきたことで、地域の人たちが変わり始めた」。岡田さんの撮影を発端にユルリ島の保全活動が始まったのだ。根室市の「広報ねむろ」はこう伝えている。

写真家の岡田敦さんを講師にユルリ島に関する講演会を開催した時、その反響が大変大きく、そのことがきっかけとなって(「根室・落石地区と幻の島ユルリを考える会」は)平成29年から活動しています>(カッコ内は筆者)

「それまではユルリ島の存在は知っていても実際、そこにどんな景色が広がっているか、地元の人は知らなかった。馬を使っていた昔の根室の風景や豊かな自然が残っていることに興味を持ち始めた。その結果、新しい馬を入れよう、ということになったんです」

 作家としての活動が社会的な反響を生み、世の中が変わり始める。それはいわゆる「社会彫刻」のようなものだと岡田さんは思っている。「一冊の写真集がすごく優れているとかって、それほど重要なことではなくて、その作品が何を生み出したか、ということが重要」だとも言う。

「消えゆく馬を追いかけてきたことによって地域がより豊かになることは、芸術活動としてよかったと思うし、よろこぶべきことなんだろうな、と思うし、ぼくの中でも、もちろん整理はついている。ただ……」

いつも、ぽかっと空いた、満たされない部分がある

 12頭がいなくなる過程で「ぼくは、どう思うんだろうとか、そういったことを知りたくて」、ユルリ島での撮影は始まった。「12頭がいなくなった後で写真集を出そうと思っていた」。

 ところが、「消えゆく馬」という、撮影の大前提が崩れてしまった。自分の中で満たされないものが出てきた。作品として、どういう終わりかたをするかは考えている。今回の写真展は「次にどこに行こうか、ということの発表の場」のような気がしている。そんなことを岡田さんは吹っ切れた表情で淡々と語った。

「原点回帰。写真を始めようと思ったときの自分が写真に求めたもの。何かを表現しようとして、本能的に自分の中で欲しているもの。それをしないと死んじゃう、みたいな。そういうものが表現だと思っている。それがまたクリアに見えてきた気がします」

 ユルリ島の馬を撮り始めたとき、周囲から「なんで急に馬を」と、言われた。しかし今回の作品を目にすると、「岡田さんのテーマは昔からぜんぜん変わらないんだなあ」という思いがする。「馬に限らず、命というものに向き合うために、通っていた気がしますね」。

 いつも、ぽかっと空いた、満たされない部分があると言う。

「でも、満たされたら終わりだと思うんです。満足が生まれたら、ものをつくらなくなると思うんです。最初に想定したものとは違うかたちにはなりましたけれど、そこで何か、写真を撮ることで埋めていきたいものが出てきた。だからこそ、つくり続けているわけで、たぶん今回も同じかな、と思っています」

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】岡田敦写真展「Light at the Edge of the World」
LUMIX GINZA TOKYO(東京・銀座) 9月25日~10月28日