2017 年に改正された「男女雇用機会均等法」では、事業者に対し、妊娠・出産に関するハラスメント(マタニティハラスメント)を防止する措置を講じることが義務づけられている。業務の繁忙や人員不足などから、こうした制度利用を邪魔したり、交換条件で退職を迫ったりするようなケースはマタハラに該当する。

さらに、妊娠・出産に関する否定的な言動が、マタハラを生む原因や背景のひとつであるとして、改善が求められている。どのような言葉が妊娠に対する否定的な発言になるのだろうか?ハラスメント対策専門家・山藤祐子さん監修の書籍『トラブル回避のために知っておきたい ハラスメント言いかえ事典』(朝日新聞出版)から、マタハラにつながる言葉を紹介する。

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■「(妊娠の報告を受けて)ちょうど忙しくなるときだな……。でも仕方ないね」は要注意

「困るなぁ」「迷惑かけないでくれよ」と言うのは、妊娠した女性に対する否定的な発言ととらえられるため控えるべきでしょう。

妻の妊娠・出産を報告した男性に対して、同様の発言をすることもハラスメントにあたります。

「ちょうど忙しくなるときだな」は事実を言っているだけなのでマタハラにはあたりません。しかし、「仕方ないね」は、やや否定的な印象を与えかねないため要注意です。

OK例は「おめでとう。今後の仕事の進め方は相談して決めていこう」です。妊娠の報告を肯定的に受け止め、妊娠中の仕事の進め方について相談に応じる姿勢をみせることが望ましいです。

■「(産休の申請を受けて)長く休むより、やめた方がまわりに迷惑かけないよ」はNG

妊娠した女性が産前産後休業(産休)を取得することは「労働基準法」で認められています。また、産休を取得したことを理由に労働者を解雇したり、不当に扱ったりすることは『男女雇用機会均等法』で禁止されています。

産休の申し出を受けた際「まわりの迷惑になるから」と退職を促すことは、どちらの法律にも抵触する不適切な対応といえます。

また、「あなたの代わりはどうにかなるから。心配しないで」は、ハラスメントではないにしろ、ややトゲのある言い方に聞こえるかもしれません。

OK例は「後のことは心配しないで。戻ってくる日を待ってるよ」です。お互い様という気持ちで、思いやりのある声かけを心がけましょう。

■「(男性から育休の申請を受けて)奥さんも育休とるんでしょ? だったら休み調整してよ」はNG

「育児・介護休業法」では、1歳未満の子どもを持つ男女の労働者に対し、育児休業の取得を認めています。しかし、「子育ては女性の仕事」といった意識が根強い日本では、男性の育休取得への理解は必ずしも進んでいないのが現状。育児参加を望む男性に対するパタニティハラスメント(パタハラ)も目立ちます。

2021年の「育児・介護休業法」改正には、男性の育休取得を促すことを目的に、「出生時育児休業」(通称・産後パパ育休)が盛り込まれました。従来の育休とは別に、子どもの出生後8週間以内に計4週間の休暇を取得できる制度です。

男性が育休を申し出た際、「子どもの世話なんてする暇があれば仕事しろ!」のような、男性が育児に参加する権利を侵害するような発言は当然パタハラにあたります。

また、個人の尊厳を傷つける「育休をとる男は仕事ができない」などの暴言を吐いたり、育休の取得を理由に本人の承諾なくプロジェクトからはずしたりといった不当な扱いをすることもパタハラです。

「奥さんも育休とるなら休み調整してよ」は、優越的な立場の上司から部下への発言は、「命令」に聞こえる可能性が高いため、育児介護法が変わりましたので、不用意な発言は避けるべきです。会社の都合を優先させるべきではありません。

女性と同じように、男性にも肯定的な表現で育休取得を後押しできるとよいでしょう。OK例は「了解しました。今後のことはまた相談しよう」です。

「育児・介護休業法」の改正により2022年10月からは、男性にも産休が認められることになりました。男性からの育休取得の申し出にもスムーズに応えられる態勢づくりが期待されます。

(構成 生活・文化編集部 岡本 咲)