WBC優勝トロフィーを手にする大谷翔平
WBC優勝トロフィーを手にする大谷翔平

作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「オータニ」の凄さについて。

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 今月、私が一番発した言葉は「オータニ」かもしれない。

 圧倒的なあのきらめきはいったい何だろう。BTSを初めて見たときに、「想定を超える未来って存在するんだな」と、その未来感、その希望的存在に衝撃を受けたものだけれど、BTS(7人です)=1オータニ……くらいの単位で、今のオータニは眩しい。オータニの横に並ぶと、あのダルビッシュにすら影が見えてしまう。光って凄いな……と思います。

 なにより凄いのは、「日本はおかしい。なぜ連日、トップニュースがWBCなのか?」とメディアへの義憤にかられる女友だちですら、「オータニは好きだけどね」とひとこと言わずにはいられないことだ。ふだん「信用できるオトコなんていない」と、男性への不信を語るフェミ友ですら、恐る恐る「オータニってどう思う?」と聞いてみれば、「いいよね!!!」と顔が明るくなる。もちろんそれは「野球の腕が凄い」ということではなく、「何だか分からないけど、あの人凄い」という称賛である。いったい、これはどういう現象なのだろう。

 大谷翔平の凄さとは何なのか……なんてことを考えていたとき、Twitterでトレンドに入っていた言葉に膝を打つような思いになった。

「大谷翔平のただしさと息苦しさ」だ。

 思わず声をあげて笑ってしまう。その瞬間にスルスルと理解する。野球に関心などなく、プロ野球は特に苦手で、マッチョな男集団を怖いと感じる女ですら(私です)、オータニへの好意を語らずにはいられない理由について。

 そもそも、これはTwitterで、オータニは「高校生みたいでキモい」「ネオテニー(幼形のまま成熟した状態)っぽい」とか、「欠点がない=人間的魅力がない」「無機質だ、男性のメス化だ、中性化だ」など、オータニの光を前にした男たちが「僕はオータニを認めない」というようなことを口にしたためにボコボコにされる様を見た男性ライターの有料noteのタイトルである。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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「男というだけでは連帯しないタイプの男」