そんな苦闘の日々が続くなか、8月20日の近鉄戦で先発した鵜飼は、2回までに3四球を与えたものの、1回は併殺打、2回は一塁走者をけん制球で刺し、無失点で切り抜ける。3回以降、立ち直った鵜飼は、伸びのある速球にスローボールをまじえ、打ち気にはやる近鉄打線を翻弄。8回まで1安打無失点に抑えた。

 そして、2対0で迎えた最終回、先頭の平野光泰に二塁打を許し、無死二塁のピンチも、後続3人を無難に打ち取り、2安打完封で鮮やかなプロ初勝利。6連勝中の“近鉄特急”を止め、大エース・鈴木啓示に投げ勝つ価値ある1勝だった。

「人生で一番うれしい日。まず最初に女房と息子に電話します」と喜びを爆発させるヒーローに、中西太監督も「これでピッチングのコツを掴んでくれるだろう」と目を細めた。

 だが、これが最初で最後の白星となり(通算1勝4敗)、77年の広島を最後に引退。好投をきっかけに大化けする投手がいれば、1度だけの好投で終わってしまう者もいる。

 プロで勝利を重ねることの難しさを痛感させられる。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら