靖さんの命を“人為的に断つ”ために必要な薬が手に入ったから、靖さんを退院させてという意味だった。山本被告は計画を遂行することを決断した。靖さんの退院の手続きを病院で済ませ、靖さんを車椅子に乗せて介護タクシーで駅まで行き、(犯行を行う)東京に運ぶため大宮に向かう新幹線に乗った。

 乗った直後だった。淳子被告が「すごい形相」で山本被告にこう耳打ちしてきたという。

「大久保と会うのはやめよう」「病院へ戻ろう」 

 計画を中止しようと言ってきたのだ。

「『なんやねん』と思いました。母は靖を殺すという現実が近づき怖くなり、完全にひるんだ。けど一番苦しんだ母が死なせなくていいと言うなら、と。父を見ると、しょぼんとした表情に見えました。殺されるということが、こっちの魂胆が見透かされていると感じました」

 山本被告も淳子被告に同意し、計画中止を決めた。フレペンは降車時にゴミ箱に捨てたという。

 正午前に新幹線は大宮駅に到着し、駅前で車いすを乗せられるレンタカーを用意していた大久保被告と合流した。

 淳子被告はその場で別れ、山本被告は犯行場所として用意した東京都江戸川区のマンションに向かった。

 計画では、新幹線内でフレペンを打たれてぐったりしているはずの靖さん。それが窓から外を眺め、目をキョロキョロさせて元気そうだった。それを見た大久保被告は驚いていたという。

「フレペン打ったのか」

 と大久保被告から聞かれた山本被告は、

「打ってない。今日は中止したい」

 と告げた。マンションに着き、車椅子の靖さんを部屋に入れると、大久保被告と山本被告はレンタカーの中で口論になったという。

「今日は中止したい、やらない、というと大久保被告は顔を真っ赤にして怒っていました。『きみ、新幹線で何していたんだ』『話が違う』と普段見せない怒りの表情でした」

 大久保被告を説き伏せた山本被告は、靖さんが入院できる病院を探し始め、大久保被告もスマートフォンで検索していたという。

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どのように靖さんを死なせたのか「キミは知る必要はない」