鑑定留置のため奈良西署を出る山上徹也容疑者=2022年7月25日
鑑定留置のため奈良西署を出る山上徹也容疑者=2022年7月25日

 昨年7月、奈良市内で参院選の演説中に、安倍晋三元首相が銃撃された事件で、約5カ月半にわたり精神鑑定が行われていた無職山上徹也容疑者(42)について、奈良地検は1月13日、殺人と銃刀法違反の罪で起訴した。奈良地検は、山上容疑者に責任能力があると判断した。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関連がどこまで審理に影響するのかが注目される。

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 公判は、奈良地裁で裁判員裁判として審理される。その前に、裁判所、検察、弁護側が、証拠や争点などを整理する公判前整理手続きが開かれるため、実際に公判が始まるまでには1、2年かかるとみられている。

 一方、今後の捜査では、自宅で銃や実弾を密造したとして武器等製造法違反容疑という珍しい容疑での立件も視野に入れているようだ。

 元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は、

「この法律の適用は珍しく、私が手がけた事件では、1995年に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教が、自動小銃を密造していたとして適用したことがあるくらいです」

 と話す。

 元山口組顧問弁護士で、銃に関する事件を数多く経験してきた山之内幸夫氏は、こう説明する。

「もともとは暴力団犯罪を想定した法律です。山上容疑者のような一般市民が銃を密造するなど想定していなかったはずです。暴力団抗争が激しかった平成時代の初め、何度か密造銃が犯行に使われていました。でも、撃った弾は相手に当たってもポロッと床に落ちるなど、殺傷能力に欠けるものばかりでした。しかし、山上容疑者の事件では、密造銃で弾丸を発射し、安倍元首相が亡くなったという重大な結果を招きました。検察は、ホームセンターで調達した材料で造った拳銃でも罪に問えると考えたのでしょう」

山上徹也容疑者が手放して路上に落ちた手製の銃
山上徹也容疑者が手放して路上に落ちた手製の銃

 とはいえ、郷原氏、山之内氏ともに、同法の適用が山上容疑者の量刑にそこまで大きく影響することはないとの考えで、あくまで殺人罪についての審理に注目している。

 山上容疑者は、安倍元首相を銃撃したことについては認めており、犯行の事実については争いがない模様だ。

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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旧統一教会のかかわりをどのように審理するか