小川:はい、発見しましたね。若干ネタバレになっちゃうかもしれないんで、聞きたくない人は、耳を塞いでいただいて!(笑い)。

 実は、書いていてずっと嫌な感じがあったんです。それは「クイズの生放送なんて絶対しないよな」ってこと。自分がディレクターだったら、事故るかもしれないし、放送の終了時間も計算できないし、展開も予想できないし、撮れ高もわからない。だから書いていて中盤ぐらいで気持ちが悪くなった。でもこれをなんとかしなきゃいけないっていう気持ちと、謎(ゼロ文字押し)をなんとかしなきゃいけないっていう気持ちが出会って、手を繋いだ。

■読者と一緒に答えを模索しながら小説を書く

杉江:推理小説って一般的には結末から逆算して書いてく小説というイメージがありますが、一方で作者が読者と一緒に答えを模索していく感じの書き方をする人もいるとは思うんです。「俺はプロット書かない」って豪語する大御所のミステリー作家もいます。「書いていればどっかで到達する」「自分が答えがわかって書いていたら、つまんないじゃん」と。

 小川さんに今日「ロジックは、いつわかって書いた?」「逆算して書いたの?」と伺いたかったのですが、答えは「そうではなくて、書きながら作者が読者の視点と同じになって発見していく面白さがあった」と。そのことは、小説にも表れていますよね。

小川:『君のクイズ』を書いている時に僕が一番知りたかったのは、「本庄絆が何を考えていたのか」っていうことです。だから逆算して初めにそこが設定されてしまった瞬間に、僕の楽しみがなくなってしまうんです。だからどこかで答えが見つかってくれないかなって思いながら書いていたし、いけるんじゃないかという、ふんわりとした感覚はあった。

 今回書いていて僕が一番気持ちがよかったのは「小説が持っている一番の弱点が、小説を支える柱になった」ということです。自分自身が「生放送でクイズ番組なんて絶対やらないよな」って思っていたことが、実は柱になった。ずっと考え続けていたことが「ゼロ文字押し」でなんとかなるじゃないか、それが結びついて僕の中での構造上の美しさになりました。

*後編「『お会いしたことないけどお世話になっている』小川哲と伊坂幸太郎の不思議な関係 <小川哲×杉江松恋対談>」へつづく

(構成/長谷川拓美)