写真はイメージ(GettyImages)
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 不妊治療を「やめる」——その決断は、途方もない葛藤と向き合う、とても困難なものだ。治療を続ければ続けるほど、時間も労力も金額もかさみ、その分簡単にはやめられなくなる。「次こそはできる」と奮い立たせることを繰り返すうちに、「できるまではやめられない」という思いになる人は多い。だが「やめる」という選択肢によって生まれる“何か”もある。

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 不妊治療の今を探る短期集中連載「不妊治療の孤独」の最終回の第4回前編では、10年にわたる不妊治療をやめた当事者のリアルな体験談をお届けする。

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「不妊治療をやめるときは、子どもを授かった時。まさか子どもを授からないまま、治療を終えることになるとは思っていませんでした」

 神奈川県在住の渡邉雅代さん(51)。7年前、44歳の時に、10年にわたる妊活と不妊治療を子どもを授からないままに終えた。

 34歳で元Jリーガーの夫と結婚。結婚当初から子どもが欲しいと考えていたものの、そこまで焦りもなく、「避妊をやめたらすぐに授かるだろう」と考えていた。ところがしばらくして不正出血があったことから、職場近くの産婦人科を訪問。検査の結果、特に問題は見られなかったが、「妊娠を考えているならタイミング法から始めましょう」と自然な流れで産婦人科医の指導のもと、不妊治療がスタートした。

 不妊治療を始めた当初、夫はあまり協力的ではなかった。

「不妊治療なんてしなくても(子どもは)できるでしょ」

と、タイミング法についてもどこか懐疑的な目を向ける。夫は「この日」というタイミングを避けるように飲み会を入れるなど、大事な日に不在ということが増えていった。

 一方の雅代さんは、毎月の生理が来るたびに落ち込む日々。消極的な夫に対し、「お願いだから、してください」と土下座したこともある。大事な日に不在にしたり、「今日は無理」だという夫に対して怒りが収まらず、発狂するように怒鳴り散らした日もある。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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