週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より
週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より

 がんが3センチ以下で明らかなリンパ節転移がなければI期になる。I期で呼吸機能に問題がない場合は、標準治療として肺葉切除が推奨され、リンパ節も切除する。I期でも呼吸機能の低下などで肺葉を切除できない場合は、小さく切除する縮小手術か放射線治療が適応になる。縮小手術には区域切除と、区域より小さく切除する部分切除があるが、これはがんが肺の表面近くにある場合などに適応が限られる。

 がんが大きく広がる場合などには、片側の肺を切除する全摘がおこなわれるが、がんのない部分の肺や気管支などをできるだけ残す方法が検討される。

 今回のケースはI期で呼吸機能も正常なので、全摘ではなく肺葉切除が適応となる。ただし、最近は呼吸機能が正常でも、がんが2センチ以下の場合、区域切除も選択されることがある。

 区域切除は、今後増えることが考えられる。日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院の森正一医師は次のように話す。

「I期でがんが2センチ以下の場合、最新の臨床試験で区域切除でも十分いい成績が出ました。今後は、I期は一律に肺葉切除を標準とするのではなく、2センチ以下の場合は、肺葉切除または区域切除を考慮するという方針に変わっていくと思います」

■「肺を残したい」セカンドオピニオンも

 岡山大学病院の豊岡伸一医師も、こう話す。

「2センチ以下のがんでも、肺の奥にある、また区域をまたがる場合は区域切除は難しいことがありますが、切除しやすい位置の場合、区域切除の選択は十分あり得ます」

 区域切除では、リンパ節を肺葉切除ほどきっちりとは取りきれず、リンパ節転移により再発が起こる危険性もある。

「区域切除では、取ったリンパ節にすぐ顕微鏡検査をおこない、転移が見つかったら、直ちに肺葉切除に切り替えるという方針が必要になります」(森医師)

 肺葉切除と区域切除のどちらがいいかは、医師によっても違うことがあるようだ。

「病巣の切り口(断端)にがんが残り、そこから局所再発する割合は、区域切除のほうが肺葉切除より高いともいわれています。根治性を高めるため、肺葉切除を患者さんにすすめるのも、理にかなった考え方です。ただし、他院で肺葉切除といわれたが、できるだけ肺を残したいと当院にセカンドオピニオンを求める人もいます。検討の結果、区域切除も可能と伝えた例もあります」(豊岡医師)

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肺がん手術の「いい病院」の選び方は?