富士山と駿河湾(奥)
富士山と駿河湾(奥)

 南海トラフ大地震ほどには注目されていない富士山の噴火だが、国や自治体では危機感を高めている。大規模に噴火すれば、100兆円以上の被害になるとの予測もある。周辺の自治体だけでなく、首都圏にも大きな被害をもたらす可能性も出てきた。

【表】火山灰が降る意外な首都圏の街はこちら

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「過去の富士山噴火では、従来の想定していたよりも2倍もの溶岩が流れ出ていたことがわかりました。最悪の事態を想定してハザードマップを改定したところです」

 こういうのは山梨県火山防災対策室の担当者だ。山梨、静岡、神奈川3県などでつくる富士山火山防災対策協議会は今年3月、17年ぶりに富士山噴火時のハザードマップを改定した。従来想定していたのは宝永噴火(1707年)の溶岩流の量7億立方メートルだったが、地質調査の進展などによって、貞観噴火(864~866年)ではおよそ2倍量にあたる13億立方メートルも出ていたことがわかった。

 富士山はかつて休火山と見られていたが、全国の火山活動を評価する火山噴火予知連絡会が1975年に活火山として選定。いつ噴火してもおかしくない活火山に指定されている。現在、活火山の数は111あるが、そのうちの50は気象庁に噴火の兆候がないか監視されている。富士山もその一つだ。しかも富士山は最後の噴火からかなり時間が経っており、次がいつおきてもおかしくない状態だと専門家らは口をそろえる。

 気象庁がまとめた資料によると、古文書などで富士山の噴火が確認できるのは781年から。今日までに17回、噴火と見られる現象があったとされる。その中で大規模に噴火したのは、貞観噴火と、宝永噴火だ。

 この二つ噴火に関する地質調査が進むにつれ、被害想定も大きく変わった。想定される噴火口の数は、従来の44か所から252か所に大きく増加。溶岩が到達する可能性のある地域も、以前は静岡県と山梨県の15市町村だったが、神奈川を含む27市町村に拡大した。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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