李琴峰さん(撮影/加藤夏子)
李琴峰さん(撮影/加藤夏子)

 12月7日に芥川賞受賞第一作となる『生を祝う』を上梓した李琴峰さん。胎児の同意を得なければ出産できない世界という設定は、新語流行語大賞にノミネートした「親ガチャ」という言葉を想起させ、大きな話題を呼んだ。この話題作に関して「小説トリッパー」21年冬季号に掲載となったロングインタビューを前後編にわけて紹介する。(聞き手・岩川ありさ/早稲田大学准教授)

※【胎児が「生まれるかどうか」を決める世界が与える衝撃 芥川賞作家・李琴峰インタビュー<前編>】よりつづく

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■登場人物たちの関係性

――この小説は、女性たちの関係性が軸になっていると思うんですね。主人公である立花彩華とその結婚相手である趙佳織との関係性もあれば、彩華と姉・彩芽の関係性もあるし、終盤には金結奈という登場人物も出てくる。これは『彼岸花が咲く島』とも繋がりますが、現在の社会の中では抑圧されている女性たちが、そこからどう解放されるのか。女性たちが解放されるには、これだけ大きな跳躍がなければならないのかと感じましたし、その大きな跳躍は良い方向にだけ進むとも限らないんだな、とも思いました。『生を祝う』では、同性婚が法制化されていて、同性カップルも子供をもうけることができる世界になっています。まず彩華と佳織の関係性について掘り下げてうかがいたいです。

李:彩華と佳織はそこまで特別な関係性ではなく、言ってしまえば一般的な人だと思います。同性婚が当たり前になっている世界の「ふうふ」だから、そこまで特別だという感じはないんですね。もちろん今は、同性愛者自体が特別なものと見做されてしまう時代で、そういう時代の同性カップルの生きづらさはこれまでの作品でも描いてきたので、そこからひとつ跳躍して、同性カップルが当たり前の世界を描き、そういうなかでの普通のカップルを描いたと思っています。

――この小説には、料理がたくさん出てきます。佳織は妊娠している彩華にトマト牛肉煮込みスープや酢豚と空芯菜炒めを作ってあげて、「頬杖をついてにやにやしながら、私が食べているのをじっと見つめている」。こんなふうに、愛しい人にいろんな料理をふるまう場面が描かれていて、それがとても印象的でした。

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「選べるもんなら、そんな男の子供として生まれたくなかった」