さらに、もう1つ大切なのは、メンバーとのコミュニケーションの質。「この場では、何を話しても許される」「ネガティブな発言をしても嫌われない」という心理的安全性を保つことが必要不可欠です。

「こんなことを言ったら、低い評価をつけられるかな」「彼に本音を話したら、上役にまで話が筒抜けになるのでは」という不安を感じさせては、メンバーは心を開いてくれません。リーダーがメンバーにとってのコーチであるためには、両者のあいだに「信頼関係」が成立していなければならないからです。

 では、信頼関係を築くために、「コミュニケーションの質」をどうすれば高められるのか。僕が心がけているのは、次の2つです。

 1つ目は「聴く」質を上げることです。聞くことではありません。単に言葉を音として耳に入れるだけではなく、その言葉の奥にある心を十分に受けとめるのです。音楽を聴く、と同じように、相手の心をよく聴くことです。

 2つ目は、相手の「話す」質を上げることです。話してはいけない、と相手が遠慮や躊躇している話題がどんなことかを推測して、封じ込めずに話しやすくするのです。

 例えば、減給、解雇、セクハラ、パワハラ、仕事にも影響するプライベート(病気お金、家族のことなど)といった繊細な話題だったとしても、「こんな話題もリーダーに話していいんだ」と思ってくれるような雰囲気をつくるのです。こちらから根掘り葉掘り聞くことは厳禁ですが、相手が話したいと思ったときに、どんなことでも話せる状態にしておくことが、信頼関係を築くための布石になります。

 良質なコミュニケーションを実現するためには、メンバーの話を聴く姿勢が重要です。さらに、コーチングで相手の話を聴くときは「この世には自分が理解できないことや、知らないことがたくさんある。自分自身が見えているのは、せいぜい全体の20%くらいだ」という前提に立ってほしいのです。「知らないから知りたい」「理解したいから教えてほしい」という気持ちを忘れないようにしてください。

次のページ
手がかかる部下に手をかける理由