金メダルを獲得した侍ジャパンの選手たち (c)朝日新聞社
金メダルを獲得した侍ジャパンの選手たち (c)朝日新聞社

 日本が持つ元々の強み、そしてこれまでになかった新たな力が出た決勝戦だった。悲願の金メダル獲得を目指した侍ジャパンの東京五輪は、苦しい試合の連続だったものの結果としては5戦全勝という最高の形で幕を閉じた。過去に優勝を果たした2006年、2009年のWBC、2019年のプレミア12でも敗れた試合はあり、主要な国際大会で全勝という形で優勝を果たしたのはこれが初めてである。

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 決勝戦のスコアは2対0と日本の最大の強みである投手陣の強さが存分に発揮された試合だったと言えるだろう。特に先発の森下暢仁(広島)は2年目、3番手の伊藤大海(日本ハム)と抑えの栗林良吏(広島)の2人はルーキーと若手の活躍が目立った。大会前には菅野智之(巨人)と中川皓太(巨人)が出場辞退し、千賀滉大(ソフトバンク)も故障明けと不安だらけの投手陣だったが、彼らの活躍がその穴を埋めたことは間違いない。

 そしてこれに現れているのが日本球界全体の層の厚さだ。森下は高校時代からU18日本代表に選ばれるほどの有名選手だったが、伊藤と栗林は決してプロが注目するような選手だったわけではない。伊藤は苫小牧駒澤大(現北洋大)、栗林は名城大といわゆる地方リーグで力をつけてきた選手である。栗林は社会人を経ているとはいえ、そんな2人がプロでいきなりトップクラスの結果を出すあたりに日本球界の裾野の広さを感じずにはいられない。

 攻撃面では1点をリードした8回に2番の坂本勇人(巨人)がきっちりと1球で送りバントを決めると、続く吉田正尚(オリックス)のヒットの返球が逸れた間に走者の山田哲人(ヤクルト)がホームを陥れ、小技と機動力を絡めて追加点をもぎ取っている。かつてWBC連覇を達成した時に盛んに言われた「スモールベースボール」がここでも発揮されたと言えるだろう。

 しかし決勝戦の戦いぶりは、これまでの日本代表とは違う面もあったことは確かである。まず何よりも大きかったのが村上宗隆(ヤクルト)の先制ホームランだ。この大会で村上は全試合8番で先発起用されていたが、これまでの機動力を重視する野球であれば少し考えづらいオーダーである。そしてその村上がこれ以上ない形で仕事をやってのけたのだ。この日のアメリカ先発のマルティネス(ソフトバンク)は立ち上がりからストレート、変化球ともに素晴らしい出来で、連打で得点をするのは難しかっただけに、村上のホームランが持つ意味は非常に大きかった。準決勝までの試合でも、ここ一番で長打が出ることが度々あり、これまでの日本代表と比べると長打力のあるメンバーを揃えられたことが機能していたと言えそうだ。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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