主人公の竈門炭治郎の親友である我妻善逸(右)(画像はコミックス「鬼滅の刃」3巻のカバーより)
主人公の竈門炭治郎の親友である我妻善逸(右)(画像はコミックス「鬼滅の刃」3巻のカバーより)

 竈門炭治郎の親友・我妻善逸は、『鬼滅の刃』におけるキーパーソンのひとりである。臆病で、訓練と任務が嫌い、女の子が大好きで、お調子者。そんなふうに、善逸はコミカルな性格が強調されている。

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 その一方で、明るく、人の心の機微に敏感な善逸のさりげない優しさには、多くの人が救われてきた。しかし、2021年に放映予定のアニメ第2期「遊郭編」では、善逸の「いつもとちがう一面」が描かれている。どんな時に、善逸は、“善逸らしくない行動”をとるのだろうか。そこから浮かびあがる、善逸の真の姿について考察する。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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■三枚目なキャラクター・我妻善逸

 我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)は、『鬼滅の刃』のメインキャラクターで、主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の親友である。最前線で過酷な鬼狩りの任務にあたり、竈門兄妹を支える重要な人物だ。

 しかし、彼のキャラクターは、いわゆる「三枚目」である。コミカルで、面白おかしい言動が繰り返される。「最終選別」の場面では、悲壮な顔で鬼殺隊入隊試験に挑んでおり、「ここで生き残っても結局死ぬわ」と言いつづけるなど、他の志願者に比べて「臆病者」に描かれている。また、鬼殺隊に入隊した者は、伝令役のカラスを得るが、善逸だけはかわいらしいスズメがつけられており、剣士としての重厚感はあまりない。

 さらに、初任務では、道中で初対面の女の子にプロポーズをしたり、炭治郎に助けてくれと懇願したりと、周囲をあきれさせる場面がつづく。

<俺はな もの凄く弱いんだぜ 舐めるなよ 俺が結婚できるまで お前は俺を守れよな>(我妻善逸/3巻・ 第20話「我妻善逸」)

■隠された善逸の戦闘力

 しかし、善逸はただの臆病者でも、単なる女好きでもなかった。鬼のひそむ屋敷に突入する際、恐怖からいったんは拒否するものの、鬼殺隊ではない一般の少年を救うために、勇気をふりしぼろうとする。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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