プレプリントは上手に活用すれば研究者にとってありがたいシステムです。しかし、ハゲタカジャーナルと呼ばれるものは違います。完全に営利目的で論文の質を評価せずに掲載する雑誌をハゲタカジャーナルと呼びます。

 ハゲタカジャーナルには、査読システムは存在しないか、あってもいい加減なものです。簡単に論文が掲載されますがその研究の質は担保されておらず、雑誌に掲載する際に投稿者に多額の掲載料が請求されます。論文が受理されやすいことから、知らずに投稿してしまうことも過去には多々ありました。現在は多くの研究機関でハゲタカジャーナルについて注意喚起がなされ、まともな研究者であれば投稿しない風潮に変わっています。

 ハゲタカジャーナルは問題外ですが、通常の専門誌の場合でも2、3人の専門家が査読するだけなので間違いや見落としがないわけではありません。ですので、専門誌に掲載されたあとに論文取り下げになるケースもごくまれですがあります。ただ、全く審査されていない論文に比べると内容は雲泥の差です。専門家の厳しい目を通して世の中に発表されているのが論文であり、ここが個人のブログとは大きく違うところです。

 プレプリントの論文は専門家も話半分で聞いている場合も多いですし、読む場合でも懐疑的にデータを解釈する必要があります。いくら自信のある人でも専門外であれば正確に読むことは不可能ですから、プレプリントの論文を参考にしたり独自の解釈を広く公開したりするのは控えたほうがいいでしょう。プレプリントの論文を掲載する雑誌(この場合はサーバー)としては「bioRxiv」が有名です。またプレプリントの検索エンジン「PrePubMed」もあります。医療情報は命に影響を及ぼす場合があります。取り扱いは慎重に、そして賢明に活用していく必要があります。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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