これらの言葉から、無惨が「外見的な美」に、こだわりがあることがわかる。鬼化した炭治郎の顔が変化した際には、無惨は「何という醜い姿だ」と、あえて外見をおとしめる指摘をしている。無惨が「人間」に擬態する時も、醜い人間に化けることはなく、服装の着こなしにもこだわりがある。

■特別扱いされている猗窩座  

 無惨の「お気に入り」が、いつでも無惨から優しくされるわけではない。炎柱・煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)を撃破した、「上弦の参」猗窩座(あかざ)は、無惨から難しい指令を与えられ、厳しい叱責を受ける。

 しかし、この猗窩座は、無惨自らが出向き、「上弦・下弦の鬼」に据えるつもりで鬼化させた人物だ。本来であれば鬼化した人物は、多くの人間を「捕食すること」を無惨から命じられているのに、猗窩座は「人間の女を食べない」ことを黙認されている。「上弦の弐」童磨(どうま)が言うには、「それを結局あの方も許してたし ずるいよねぇ」と、猗窩座の特別扱いぶりがうかがえる。作戦遂行能力の高さでいえば、童磨は猗窩座よりも優れている。にもかかわらず、無惨は猗窩座を重宝する。「上弦の鬼」会議でも、猗窩座の童磨に対する不遜な態度をとがめたのは、無惨ではなく、黒死牟だった。

■理想の部下だった黒死牟

「上弦の壱」の鬼・黒死牟(こくしぼう)は、ほかの鬼とは「別格」である。無惨が敗北した、「日の呼吸」の使い手・継国縁壱(つぎくに・よりいち)の、双子の兄である継国巌勝(つぎくに・みちかつ)がその正体だ。

 巌勝は「月の呼吸」を使う唯一の剣士。「日・月」の対比は、継国兄弟の関係性を示唆している。太陽と月のように、互いは互いを求め、複雑な兄弟愛を持ちながら、完全に離れることも、打ちとけきることもできない。無惨が恐れるたったひとりの人間・縁壱からの攻撃を避けるため、無惨はその兄に目をつけた。

<ならば鬼になれば良いではないか><どうだ? お前は選ぶことができるのだ 他の剣士とは違う>(鬼舞辻無惨/20巻・第178話「手を伸ばしても手を伸ばしても」)    

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無惨のゆがんだ嗜好