不利な判定にも負けず試合に勝利した小山台の選手たち (c)朝日新聞社
不利な判定にも負けず試合に勝利した小山台の選手たち (c)朝日新聞社

 誤審に怒ったスタンドのファンがグラウンドに乱入するという、高校野球にあるまじき騒動が起きたのが、1980年の埼玉大会決勝、川口工vs谷商だ。

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 事件が起きたのは、1対2とリードされた川口工の5回の攻撃中。1死から6番・瀬川誠が中前安打で出塁し、次打者・坪山耕也の2球目に二盗を試みた。

 捕手・石塚順一が二塁に送球し、クロスプレーとなったが、ベースカバーに入ったショート・福島雅也が落球したことから、セーフと思われた。

 ところが、二塁塁審の判定はなぜか「アウト!」。川口工の大脇和雄監督は、国府田等主将を二塁に走らせ、「落球しているからセーフ」とアピール。いったんベンチに引き揚げかけた瀬川も二塁ベース上に戻ったが、審判団が協議した結果、「タッチ後に落球したのであり、タイミングはアウト」という理由で却下した。

 だが、塁審は福島の後方に立っていて、死角で落球が見えなかったことに加え、福島は落球後に遅れて空タッチにいっているように見えるので、落球がなくてもセーフのタイミングだった。

 納得のいかない判定に、スタンドから空き缶や紙くずが投げ込まれ、激昂した3、4人のファンがグラウンドに乱入し、一、二塁間で審判に食ってかかった。緊迫した好ゲームが一転して大荒れの事態に。この騒ぎで試合は約10分間中断した。

「これが高校野球です。商売でやっているわけじゃないんですから(判定は受け入れるべき)」というテレビ中継解説者のコメントもなかなか味があった。

 そして、再開直後、皮肉なことに、坪山は右翼線に二塁打を放つ。もし、二盗がセーフだったら、2対2の同点になっていたところだった。

 結局、この回は無得点に終わり、その裏、気持ちの整理がつかないエース左腕・関叔規が力み、球が高めに浮くところを連打されて2点を失った。「冷静になれ。落ち着くんだ」という大脇監督のアドバイスにもかかわらず、選手たちは二塁封殺プレーに際してスパイクを上げて滑り込んだり、本塁上のクロスプレーでも喧嘩腰に近い強引なタッチの動きを見せるなど、怒りに任せたようなラフプレー、接触プレーも相次いだ。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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一度はゲームセットになったけど…