「性的マイノリティーの人たちは『生産性がない』」と2018年7月発売の月刊誌に杉田水脈議員が寄稿した見解をきっかけに、LGBTの当事者、障害や難病を抱える人など約110人が参加する「生きてく会」(すべての人が差別されることなく安心して生きていく会)が一昨年秋に開かれた(呼びかけ人・川口有美子氏)。人の価値を生産性の有無で評価し、マイノリティーへの差別が政治に悪用されることへの危機感が背景にある。この会をともに企画し、『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書)の著書がある一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事・稲葉剛氏が報告する。
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■政治と差別をテーマに110人が参加して集会

 政治家が特定の人たちに対して、マイナスのレッテル貼りを行ない、差別やヘイトを扇動するという事態に危機感を感じ、私は東京都中野区の区議会議員でLGBT議員連盟のメンバーでもある石坂わたるさん、ALSなど難病を抱える人たちの介護支援に取り組むNPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会の事務局長の川口有美子さんと共に、「政治から差別発言をなくすために私たちがすべきことは?」という院内集会を企画した。

 集会では、東京大学先端科学技術研究センター准教授の谷(くまがや)晋一郎さんが基調講演を行った。

 熊谷さんは、「なぜ政治の場で差別発言をしてはいけないのか」「なぜ政治は差別という問題を本気で考えないといけないのか」という問いを設定した上で、「スティグマ」という概念を軸に問題を解説してくれた。

■「障害の社会モデル」 変わるべきは社会環境だ

 脳性まひの当事者でもある熊谷さんは、自分自身の幼少期の経験から語り始めた。熊谷さんは子どもの頃、「少しでも健常者に近づけることが良いことだ」という親の考えに基づき、1日6時間のリハビリをさせられていたという。時にはリハビリのしすぎで骨折をすることもあったそうだ。

 一生懸命、リハビリをしたものの、健常者になることはできず、「自分は社会の中で生きていけるのだろうか」という不安を抱えていた頃、障害者の当事者運動に出会い、「障害の社会モデル」という考え方を知ることができた。それは自分にとって、とてもラッキーなことだったと熊谷さんは振り返る。

「障害とは皮膚の内側にあるのではない。皮膚の外側にあるものだ。階段をのぼれない私の体の中に障害があるのではない。階段しか設置していない建物の中に障害がある、というのが社会モデルの考え方です。この考え方は180度、私の見方を変えてくれました」

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変わるべきは、私の体ではない…