「あなたの意志が弱いからでしょ」「あなたが努力不足なんでしょ」と、誤って解釈される属性はスティグマを負わされやすいというわけだ。その例として、谷さんは依存症や肥満をあげ、「不摂生で病気になった人」への医療保険の適用を問題視する麻生大臣の発言(編集部注:2018年10月23日の記者会見における「『自分で飲み倒して、運動も全然しねえで、糖尿も全然無視している人の医療費を、健康に努力しているオレが払うのはあほらしい、やってられん』と言った先輩がいた。いいこと言うなと思って聞いていた」)、こうした発言が社会に対してどういう効果を与えるのか、「帰属理論」の観点から考えていただきたいと述べた。

 自己責任論が強い日本社会では、ホームレスの人たちや生活保護利用者に対して、「努力が足りないから貧困に陥ったのではないか」という眼が向けられることが多い。こうした人々への偏見も、「帰属理論」で説明をすることができると私は思う。

 スティグマが貼られやすい属性としては、精神障害、HIV、エスニックマイノリティー、心身の障害等があり、こうした属性に貼られたスティグマによって、住まいや仕事へのアクセス、人間関係、健康状態などにマイナスの影響が生じているということが世界中で研究されている、と熊谷さんは指摘する。

 スティグマが社会資源からの阻害、社会的孤立、ストレス、飲酒や喫煙などの適応的でない対処行動といった問題を生み出し、健康の不平等につながっていくメカニズムが解明されつつあるのだ。

 熊谷さんは、本人の意志の問題とされがちな薬物依存などのアディクションも、スティグマに対する自己対処として起きる例が多いと述べていた。路上生活者の喫煙率の高さやギャンブル依存やアルコール依存の人が多いという問題も、その人たちが人生の中で直面してきたスティグマとの関連で考える必要があるだろう。

稲葉剛(いなば・つよし)
一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事、認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、立教大学客員教授、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人、生活保護問題対策全国会議幹事。1969年、広島市生まれ。東京大学教養学部卒業(専門は東南アジアの地域研究)。在学中から平和運動、外国人労働者支援活動に関わり、94年より東京・新宿を中心に路上生活者支援活動に取り組む。2001年、湯浅誠氏と自立生活サポートセンター・もやい設立(14年まで理事長)。09年、住まいの貧困に取り組むネットワーク設立、住宅政策の転換を求める活動を始める。著書に『貧困の現場から社会を変える』『生活保護から考える』、共編著に『ハウジングファースト』など。