それは、NHKが1991年に朝ドラでリメイクした「君の名は」だ。くしくも「東京ラブストーリー」が社会的現象を巻き起こしてフィニッシュした翌月に始まった。こちらのオリジナルは52~54年にラジオドラマや映画になり、ラジオの放送時間には銭湯の女風呂が空になるという伝説も生んだ恋愛ドラマの古典。織井茂子による同名主題歌(作曲は現在の朝ドラ「エール」の主人公のモデルでもある古関裕而だ)も大ヒットして「紅白」でも歌われた。

 それゆえ、NHKは「おしん」(83年)以来となる1年間の放送で臨むなど、大いに入れ込んでいたものだ。しかし、思いのほかパッとせず、平均視聴率は朝ドラ史上最低(当時)を記録。オリジナル映画でヒロインのファッションがまねされたようなこともなく、主題歌をカバーした石川さゆりが「紅白」でそれを歌うこともなかった。

 大コケの原因は、時代遅れのひとことに尽きるだろう。40年近く前には斬新だった「すれ違いのもどかしさ」はその後、さまざまなドラマや映画で使い古され、効力を失っていた。また、オリジナルがヒットした終戦直後には切実だった「会いたい人に会えない」という国民共有の寂しさも、平成初期には希薄になっていたのだ。

 そんな平成初期にヒットした「東京ラブストーリー」についても、長い間隔を挟んでのリメイクでは似たことが起きるのではないか。ちなみに、オリジナルにおいて、斬新で切実だったのは、女性が恋愛をするスタンスだ。

 原作は柴門ふみによる同名マンガだが、作り手はドラマ化にあたり、ライバル役の扱いだったリカをヒロインに据えるなどの改変を行った。リカはとにかく自分主導で「ねぇ、セックスしよ!」と誘いかけたり、別れを切り出されても「認めない!」と突っぱねたりする。そして、それでも相手がなびかないとわかったときには「トホホだよ」と言って姿を消す。そんな恋愛スタンスが従来にはない女性像としてもてはやされたのである。

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